帰宅

 帰ってきた彼とすぐには予定が合わずに、やっと会えたのはそれから一週間後のことだった。

 彼の家で前みたいにテレビを見て二人で同時に笑って、ゲームをしたりした。

 だが久々の幸せな時間はすぐに終わりを告げた。

 洗面台に女性物のクレンジングオイルを見つけてしまった。

 彼は元カノの物だと言い張るけど、前に来た時はなかったはずだ。

 ついでにホテルの件も聞いてみた。

 すると一旦は友達とそこで飲み会をしていた。とわかりやすい嘘をついたが、私が

「付き合ってないんだし、隠す必要ないからちゃんと教えて」

 と尋ねると全てを正直に話してくれた。

 謝られる筋合いはないため、謝罪の言葉を求めていたわけじゃない。

 口では強がっているが申し訳なさそうに真実を話す彼を見て、私は彼のことを嫌いにはなれなかった。

 嘘をついてくれたのは、彼も私に嫌われたくないと思っていたから。

 そう自分に言い聞かせ、その日も私たちは体を重ねた。


 でも私は自分自身を騙し続けることもとうとう限界が近づいていたようで、その頃から夜一人で泣くことが増えた。

 最近彼の対応が冷たい気がして他の女の存在を余計に探ってしまう。

 やっぱり私は彼にとっていくらでも代わりのいる都合の良い存在なのだろう。

 でも体の関係を始めてしまったのは私の方で彼は悪くない。そう思いたかった。

 友達とやけ酒をして、そのまま勢いで彼の家に押しかけた時は、いつだって彼は呆れたように笑いながら迎えてくれた。

 半年間待ってやると、そう言ってくれたのは紛れもない彼だ。

 今私がやるべきことは、他の女の存在を疑うでもなければ、有る事無い事一人で悩むことでもなく、彼のその言葉を信じてダイエットを頑張るしかないのだ。

 でもそんな口約束だけで安心できるようなさっぱりした女ではないことを自分が一番わかっている。

 それ以上の言葉を求める権利は私にはないし、彼もこれ以上期待させるようなことを言えないこともよくわかっている。

 けれども二十歳そこらの学生がそんな口約束を丁重に守って、彼女を作ることなく私を待っていてくれる保証はどこにもない。

 その証拠に現に彼は今も複数の女性と関係を持っていることは確かだ。

 私よりも良い女がいればそちらに靡いてしまうだろう。

 今私がするべきことは自分磨き、ただそれだけなのに、今日もそんな答えのない自問自答を繰り返してはいつの間にか寝落ちする毎日が続いていた。

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