二度目
一度デートをして、その場ではお互い楽しんだふりをしていても帰ってから連絡が来なくなることもそう珍しい話ではない。
一方通行の熱だったり、はたまたお互いが冷めてしまったり。
今回ばかりはそのようなしょうもない終わらせ方をしたくないと思って、帰ってからすぐに私の方から連絡をした。
本当ならここは一歩引いた淑女を演じる方が印象は良かったのだろうけどそこまで頭が働かず、とにかく彼との関係を終わらせたくなかった、それだけに必死になっていた。
彼からの返事はあっさり来て、それから私たちは他愛もない話をして、それは日付が何度変わっても途切れることはなかった。
ある日、いつものように電話をしていると、
「今日飲み会なんだけど、
その後暇だから会おうよ」
とお誘いを受けた。
お酒が入っている状況で、しかも一人暮らしの彼の家に誘われてしまった。
何も起きないはずがないのに、彼に会いたい気持ちが勝って私は準備をした。
終電で帰ってきた彼と、終電で彼の家の最寄りに着いた私は駅前の銅像の前で落ち合って彼の家に向かった。
寒さかアルコールのせいかわからないけど、鼻先を赤く染めた彼は前に見た時より少し砕けた表情で可愛らしく思えた。
さりげなく荷物を持ってくれた彼の腕は逞しくて女の性が顔を覗かせる。
家に着くと彼は初めて上がる家に萎縮している私などお構いなしにベットに入った。
私はどうしたらいいかわからずソファに座りながら、彼のあまり女性慣れしていない一面に安堵した。
いやもしかしたら自分にそう言い聞かせ安心したかっただけかもしれない。
だがすぐにベットに私を誘うようなことをしなかった彼に余計に魅力を感じて、自分自身でも抑え切れないほど彼への愛が溢れて止まらなくて、気付けば私は彼の眠るベットに潜り込んでいた。
簡単にヤれる女、尻の軽い女。
そうゆう印象を植え付けてしまうことは今後、健全で良好な関係を築くことの圧倒的な妨害になることなんて、私がよく知っているはずなのに。
その頃の私はすでに自分を制御できなくなってしまうほどに、彼に心を奪われていた。
少し困った様子の彼の表情はアルコールによってすでに絆されていて、色気が溢れていた。
そんな状況に私が耐えられるはずもなく、気付けば彼に跨り腰を揺らしていた。
そんな私にも僅かに理性が残っていて、ここで行為に及んでしまった場合、最初に自分で言った恋愛観に矛盾が生じると思った。
自分の言った恋愛観に則って今後の私たちの関係が決まるのであれば私たちは付き合えない、セフレ止まりだ。
すでに行為に及んでいると言っても過言ではないこの状況下で必死に頭を働かせた。
目線の下には顔を覆い隠しながら息を漏らす愛おしい彼と、その彼の肉棒が私の秘部に擦れている。いや自ら擦りつけに行っているという表現が正しいだろう。
「今ならまだ引き返せる」
という自分の心の声が脳内で反響する。
そしてその警告は彼の一声で鳴り止んだ。
「それもう入れてって言ってるようなもんだよ」
次の瞬間、私の腰は彼の手によって動きを制御され、気付けば私の中は彼の温もりでいっぱいになった。
私の体は考えることをやめて、目前の快楽と幸福に満たされた。
私の腰を乱暴に掴み、必死に腰を振る彼が可愛くてたまらなくて、今までに感じたことのない多幸感に包まれていた。
私たちは何度も体を重ね、気付けばコンドームの箱は空になっていた。
いつの間にか彼の腕の中で眠っていて、真上に登る太陽が眩しく感じて目を覚ました。
彼の腕をすり抜けてベランダに出て、タバコを吸ってから部屋に戻った。
彼はその物音で目を覚まし、寝起きの目を擦りながら布団を広げた。
「おいで」
何も言わずに私はまた彼の腕の中に戻り、一瞬にして冷えた体を温め直した。
モゾモゾと布団の中で体制を変える彼が赤子のように見えてとても微笑ましかった。
彼は私のパーカーの中に侵入してきたかと思うと、私の胸を枕にして二度寝をし始めた。
その彼の寝息に釣られいつの間にか私も二度寝をしてしまっていた。
次に目を覚ましたのは夕方で、街には五時のチャイムが流れている。
私の服からモゾモゾと抜け出して、そのまま私の両腕を押さえつけた。
何をされるか容易に想像はついたけど、何も知らないふりをして、
「何すんのさ」
と聞くと、彼は黙って私の秘部に手を伸ばした。
少し抵抗はしたけれど、寝起きで力の加減がわからない男性の力には微塵も敵う気配がなく、されるがまま行為をした。
今更ながら後悔の念に苛まれた私は、彼に抱かれながら愚痴をこぼした。
「付き合う前にヤっちゃったから、もう私たち付き合えないね」
そう呟いた私の目には微かに涙が浮かんでいた。
「次やる時は、ちゃんと付き合ってからだね」
今回の過ちをリセットしてくれた彼の言葉は私の不安な気持ちを払拭してくれたように思ったが、すぐに正気に引き戻されて、考えるより先に疑問は声になっていた
「それっていつ?」
「うーん、君がもう少し痩せたら」
そう来たか。
確かに、高校を卒業して運動もしなくなった今の私の体は平均よりもほんの少しふくよかかもしれない。でもそうきたか!
確かに彼の言っていることは間違いないし、好きな人のためなら頑張れる。
この時私にはダイエットの神が降りてきた、はずだった。
体型を含め見た目全てが好みではなかったらそんなヒントも与えずにヤリ捨てするのが相場ではないだろうか。でも彼は違う。
彼は、積極的に連絡もしてくれるし、無口で無愛想だけれど彼なりの優しさだって時折見せてくれる。
何より、下心100%のお世辞で褒めてくれていた過去の男と違って、欠点を素直に指摘してくれた彼。
「半年間待ってるから、がんばって」
そう私に言う彼の目はまっすぐで、嘘を吐いているようには見えなかった。
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