エピローグ 静かな通信
夜明け前。
低層区画の端、使われなくなった展望デッキ。
ヘルメスは手すりに寄りかかり、薄くなり始めた空を見ていた。
背後で、足音が止まる。
「……まだ、ここにいたんですね」
リオだった。
作業着のまま、眠そうな顔をしている。
「用件は終わったはずだ」
「はい。でも、一つだけ」
リオは隣に立ち、同じ方向を見る。
「これから、どうするんです?」
ヘルメスは答えない。
しばらく、風の音だけがあった。
「行く場所はある」
「目的は?」
「ない」
リオは小さく息を吐いた。
「それ、結構しんどいですよ」
「慣れている」
「……でしょうね」
空の色が、わずかに変わる。
都市が、朝の準備を始めていた。
「あなたのデータ、完全に消しました」
リオが言う。
「もう追跡も、記録もありません。名前も、番号も」
「そうか」
「だから、その……普通に生きてもいいじゃないですか」
ヘルメスは、手すりから離れる。
「普通は、定義が曖昧だ」
「ですよね」
リオは苦笑した。
「でも、今日からは選べます」
ヘルメスは一瞬だけ、空を見る。
そして、刀の入ったケースを肩に担ぎ直した。
「選ぶ時間はある」
「はい」
二人の間に、沈黙。
それは、もう重くはなかった。
「じゃあ」
リオが言う。
「また、会うことは……」
「…気が向いたら、酒でも奢ってやる」
「! はい! ぜひ!」
リオは手を振り、背を向けて帰っていく。
ヘルメスはその背中を見送り、反対方向へ歩き出した。
都市は目を覚まし、人が増え、音が戻ってくる。
その中に、彼の足音も混じっていった。
ブレード・アヴェンジャー2300 zakuro @zakuro_1230
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