第5話 決着 屋上の風と都市の騒音

リフトが止まり、風の音が流れ込んできた。

屋上だった。


都市で最も高い位置。

足元には、無数の光が重なり合っている。


マックス・ジョーが先に降り立つ。

ヘルメスは一拍遅れて続いた。


フェンスは低く、意味を成していない。

ここから落ちれば、何も残らない。


「いい場所だ」


マックスが言う。

義肢の各部が展開し、完全な戦闘形態になる。


「逃げ場はねぇぞ」


「逃げる気はない」


ヘルメスは刀を正面に構える。

両足で地面を踏みしめる。


警告音が遠くで鳴っていた。

だが、ドローンはまだ来ない。

都市は、ほんのわずか、様子を見ている。


「最後に聞くが、」


マックスが言う。


「本当に、それだけのために生きてきたのか」


「生きてはいない」


ヘルメスは踏み込む。


銃声と同時に、刃が走った。

義肢の腕が吹き飛び、破片が宙を舞う。


マックスは後退し、即座に別の武装を展開する。

だが、間に合わない。


距離は、もうない。


ヘルメスは斬る。

横、縦、踏み込みからの一太刀。


合理も計算も、ここでは意味を持たなかった。


最後の一撃。

刃は、マックスの胸部を正確に捉えた。


動きが止まる。

義肢の駆動音が、ひとつずつ消えていく。


「……そうか」


マックスは、ゆっくりと膝をついた。


「結局……どこまでも昔のままだな、お前は」

「だが、それでいい」


ヘルメスは刀を引き抜く。


マックスの体は、前に倒れた。

そのまま、屋上の縁を越える。


落下音は、聞こえなかった。


しばらくして、警告音が近づく。

ドローンの影が、夜空に浮かぶ。


ヘルメスは刀を納め、コートを拾う。

逃げる動作はしない。


しかし、ドローンは距離を保ったまま、停止した。


通信が入る。


「……記録、消しました」


リオの声だった。


「あなたの存在も、ここでの出来事も。これ以上は、追われません」


「なぜだ」


「理由はいりません。もう……終わった顔をしてますよ」


通信は切れた。


屋上には、風だけが残る。

都市は、何事もなかったように光り続けている。


ヘルメスは空を見上げた。

月は、数世紀前と変わらない位置にあった。


刀に触れ、少し考え、手を離す。


もう、やることはない。


彼は背を向け、非常階段へ歩き出す。

足音は、次第に都市の音に溶けていった。

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