第4話 マックス・ジョー

ハッチが開いた光の先は、空中庭園を模した中層のテラスだった。


人工樹木が並び、足元には水の流れを模した光のラインが走っている。

夜風は弱く、都市の音がここだけ薄められていた。


「遅かったな」


声は、背後からだった。


ヘルメスは振り向かない。

気配は、最初から正面にある。


「予定通りだ」


マックス・ジョーは手すりに腰掛け、夜景を眺めていた。

義肢は増え、体の半分以上が人工物に置き換わっている。それでも、立ち姿に無駄はない。


「都市AIを抜けてくるとは思わなかった」

「抜けてはいない」


「そいつぁ違いないな」


ククッと笑い、マックスは立ち上がる。


二人の間に、数メートルの距離。

その外側を、不可視のセンサーが取り囲んでいる。


「ここは安全圏だ。公式にはな」


「そうか」


ヘルメスはコートを脱ぎ、地面に落とす。

刀は、まだ抜かない。


「その刀、まだ使えるのか? 」


「問題ない」


「そうか」


マックスは手を広げる。

掌の内側に、小さな投影装置が光った。


「時代は変わった。個人的な因縁は、処理されるだけだ」


「処理するのは、俺だ」


言葉は淡々としていた。

感情を乗せる必要はない。


マックスの口元が、ほんの少しだけ歪む。


「数百年だぞ。まだ、その続きをやるのか」

「ここまで来た」


「それだけか」

「十分だ」


少しの間、人工樹木の葉が、風で揺れていた。


「……あの夜のことか」


マックスが言う。


「情報が漏れた。彼女は、最初から助からなかった」

「知っている」


「なら、なぜ――」


マックスの言葉が途切れた。


ヘルメスが、刀を抜いたからだ。


夜光に反射しない刃。

古く、静かで、余計な装飾がない。


「理由は、終わりにある」


マックスは一歩下がる。

義肢が低く駆動音を立てた。


「ここでやれば、ドローンが来るぞぉ」

「承知の上だ」


「…お前は馬鹿だな」

「昔からだ」


次の瞬間。

マックスの腕部が変形し、内蔵銃が展開される。


同時に、ヘルメスは踏み込んだ。


銃声。

刃が、光を切る。


弾丸が逸れ、人工樹木を粉砕する。

ヘルメスは距離を詰め、横薙ぎに斬る。


マックスは後退し、義肢で受けた。

金属が裂け、火花が散る。


「まだ、こんな戦い方か! 」


「変える理由がない」


二度、三度。

斬撃と射撃が交錯する。


マックスの動きは合理的だった。

無駄がなく、迷いもない。


それでも、一歩ずつ、下がっていく。


警告音が、空間に鳴り響く。

都市AIの反応だ。


「こっちに来いよ」


マックスはテラスの端へ走っていく。


「続きを、見せてやる」


彼は、非常用リフトに飛び乗った。

一拍おいて、リフトの上昇が始まる。


ヘルメスは追う。

リフトに乗り込み、刃を構えたまま立つ。


二人だけの狭い空間。

床が震え、上へ向かう。


マックスは、ヘルメスに向けて笑いかけた。


「屋上だ。この前と同じ高さで、終わらせようや」


ヘルメスは答えない。

ただ、刃の向きを、わずかに調整した。

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