(2)賑やかな卒業式
( う わ ぁ )
(聞いてはいたけど、ここまでなんて……)
そう呟くクレットとハーティが見つめる先、そこには、
「ままー、ままぁー! みてぇー?」
「きゃははははっは!」バタバタバタっ!
「うわぁああああん!!」
「これぼくの!」「ミミちゃんのだもん!」
「メグちゃんがぶったぁぁああ!」
講壇の前、卒業生の席の前で繰り広げられる、幼児たちのカオスな狂騒の風景があった。
ここは学院の講堂。「前年度」の卒業式である。
卒業生の最前列には、子供たちと、彼らの面倒をみる侍女たち、その後ろで着席して優雅にくつろぐ、卒業生達の姿がある。
侍女たちも、泣いている子はともかく、他の子達については何も手出ししようとしていなかった。
学院側は、わざわざ前年度の卒業式を新年度に執り行い、クレット達新入生に見せているのだ。
(こんなの、卒業式じゃない、結果発表会じゃないの……!)
クレットはそう思い、そのことにぞっとしていた。
そんな新入生たちの表情を見て、満足げに微笑む教員達の顔には気付かずに。
壇上では、何事もないかのように粛々と、学院長、続いて王の名代の公爵など来賓のスピーチが続いていた。
ちょいちょい。
クレットの腕をつつくので、ハーティの方を見ると、幼馴染は物言わず講堂の後列の方を指さした。
クレットは誘導されてそちらに目をやり、顔が引きつった。
(あ、あれ、確かカーリン伯爵令嬢、よね)
講堂の最後尾、わずかに3席があって、両脇に座る令嬢は俯いてこの時間をやり過ごそうとしてるかのよう。
中央に座っているのが件の伯爵令嬢、射殺さんばかりに前面を睨み付けて、その口元は歯ぎしりしているのが、聞こえないけどここまで響いてきそうである。
(子無しは悲惨よねぇ……)
(欠席は認められないんだよね?)
小声で会話しながらも、二人とも、それが自分に降りかかる未来を幻視して、ぞっと鳥肌が立ち、視線をそっと講壇の方に戻すのだった。
(あれ?響いてきそうといえば……)
クレットは、余計なことに気が付いた!
(ね、ねえ、なんで講壇のお話って、マイクも拡声魔法も使ってないの?)
(え、あ!)
(あれ、後ろの方までまともに聞こえてないよね? ね?)
(言わないで……)
判ってはいたけれど、学院における子供の有無の格差は、ここまでなのかと慄く二人。
――こんな風になりたくないでしょう? と、言われているようで。
よく見ると、少し離れた新入生席に座るエミリア嬢ですら、余裕のない真っ青な表情をしている。況や自分たちをや。
壇上は、何事もなく式次第が消化されていき、次は式のクライマックス、卒業証書の授与に移ろうとしていた。
名を呼ばれた主席の男爵令嬢は、侍女から乳飲み子を受け取り、もう片方の手で幼児の手を引き、自席からふわっと飛び上がるとそのまま壇上に静かに着地した。
幼児の手を一瞬だけ放して証書を受け取ると、乳飲み子を抱いた方の指で証書をつまんで手を繋ぎなおし、くるっとその場で卒業生たちの方に向き直ると、勝利宣言のように、優雅に一礼した。そのお腹は、少しまた膨らみを見せている。
(え、あの人3人目まで出来てるの? どれだけなのよ)
ハーティの呟きに、クレットは反応する余裕がなくなっていた。
(ど、どうしよ、どうしよう……)
クレットの焦りは入学後、最高潮まで高まっていたからであり、
そしてそれは、学院側、ひいては宇宙時代の「常識」的には、思う壺なのであった。
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