第3話 伯爵様の依頼
「…なるほど、お嬢様、ミスレア伯爵令嬢の様子がおかしいと」
シヴァルツ伯爵様の愛娘、ミスレア・ド・シヴァルツ伯爵令嬢。
ただ一人の娘故、大層甘やかしてきたらしい。
しかし道を逸れることなく、立派な淑女に育っているという。
そんな愛娘の、様子がおかしい。
誠実で頭も良く、努力家。人当たりも非常に良く、婚約者候補もいる。
最近、ぼーっとどこかを見つめることが多く、冷たいらしい。
使用人にも手酷く当たるという。
「それで何故私のドールハウスへ?相談すべき相手に私は相応しくないと思いますが」
事実、こういう場合、魔導師などに頼るのが普通だ。
記憶を覗けば原因がわかるのだから。
「勿論、私もそう考えた。しかし、ミスレアは魔導師。自身に強固な守り術をかけている。つまりミスレアに魔法を施せない」
「ああ、なるほど。それは確かに魔導師に頼ることは難しいですね。しかし」
私、人形師に頼むものでもないでしょう。
と言おうとしたが、喉奥で留めておいた。
「何か私に頼む理由が?」
「娘は、ミスレアは昔から人形が好きなんだ。幼い頃にあげたものをリメイクを繰り返し、まだ保管するほどに」
「私の作る人形に、魔法のような力はございません、とだけ先に申し上げておきますね」
どこから尾鰭が付いたのかは知らないが、私の人形は不思議な力があるとかないとか、なんて噂が流れているらしい。
このシヴァルツ伯爵も、その噂を信じていないといいが。
「安心していい、そんなことはわかっている。ただ、娘に人形を作って欲しいんだ。世界に、一つだけの」
「それは勿論、お題を支払っていただければ人形はお作り致しますが…」
それだけで解決するものだろうか。少し不安に駆られる。
勿論、精一杯人形を作ることに変わりはないが。
「では、人形を一つ、頼めるだろうか?」
「承りました。2週間ほどお待ち頂けますでしょうか」
「わかった」
根本的解決は、私の仕事ではない。そう、私の仕事ではない。
私には一切関係ないことだ。人助けは、腐るほどやった。
それでも私は今まで生きている。魂は輪廻から抜け出せていない。
つまり、人助けなどしても、私にメリットはない。
お人好しでも、何でもないのだから、私がすべきことは何もない。
シヴァルツ伯爵は、ライスター様を連れ、私の店を出た。
人形を作るのは仕事であるし構わないのだが、結局どういうものがいいのだろうか。
「さて、材料を買いに行こうかな、相手は伯爵様だし」
誰もいなくなった店で、私は独り呟く。
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