第4話 美しい騎士

「うわ!?ら、ライスター様、シヴァルツ伯爵とご一緒にお帰りになったのでは?」


夕陽が傾き始めてから扉を開ければ、外にライスター様が立っていた。

扉のすぐ隣にだ。流石に驚きもする。

夕日に照らされている彼は、より一層美しく見える。


「伯爵様の依頼の為に買い出しに行くのでしょう、人形師殿。護衛致します」


「えぇ、必要ないですよ。王都から出るわけでもませんし」


「伯爵様からのご命令ですので」


「……それなら仕方ありませんね」


想定外の出来事が起こったが、仕方ない。

現在の私は平民。騎士であるライスター様、貴族であるシヴァルツ伯爵には逆らえない。


街の人間の視線が痛い。当たり前ではあるのだが。

煉瓦作りの家々から顔を出す人々は、気さくに話しかけようとしただけなのだろう。しかし隣に燕尾服の美しい男。

驚かない方がおかしいだろう。これでは今から向かう店の店主も腰を抜かしてしまうかもしれない。


「あの、ライスター様」


「何でしょう?」


「私はただの人形師で、平民でございます。敬語は不必要ですよ」


「しかし……分かった。人形師殿の言葉に甘えよう」


彼は少し悩んでから、恐らく普段の口調に戻した。


「目上の方に敬語を使われるのはどこかもどかしいですから。助かります。ついでに、お聞きしたいことがありまして」


折角だ、送る相手である伯爵令嬢のことを聞いておきたい。

私は店に向かう道すがら、ライスター様にミスレア伯爵令嬢の話を聞く。

しかし意外にも、参考になりそうな話は出てこなかった。


「ミスレア伯爵令嬢は、あまりご自身のことをお話にならないのですか?」


「そうだな、ミスレアお嬢様は聞かれたことにはお答えになるが、自らご自身のことをお話になることはない。今回に関しては聞いても答えてくれないのだが」


どうしたものか、と頭を悩ませる彼。どうやら余程深刻らしい。

眉間に皺を寄せて空を仰いでいる。大変そうだ。他人事で申し訳ないが。


「ライスター様、着きましたよ」


「…ここは?」


「私の行きつけのお店です。人形を作る時はここに買い出しにきてから作ります」

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