第3話

 エミという名の女性を激しく求めるアカウント――tank22 を見つけてから、笑美はそのアカウントをフォローせずに、しかし毎日、一日のうちに幾度も、そのアカウントを見にいかずにはいられなかった。



 笑美も引きこもる前までは、家族に必要とされていたことは分かっていたし、恋人はいなかったけれど、同性の友人と互いに嫉妬のような独占欲を感じるほど親密な関係になったこともあった。



 しかし tank22 のエミという女性に対する渇望は、笑美の知る親密さから来る愛情や恋慕とは違う、激しくそして切実な、抑えきれない荒ぶる感情の吐露のようで、その言葉たちは激情によって自らが壊れてしまうのを防ぐためにネットの海に放流されているように思えた。


 そしてその乞い求められている女性の名前が『エミ』であることは、笑美の蜷局とぐろを巻いた心の暗いエネルギーに刺激を与えた。





 笑美は tank22 とエミのことを幾度も思い浮かべた。 tank22 はエミの具体的な姿や状況についてつぶやくことはなかったから、それは純粋に笑美の想像する二人の姿だった。ある時の tank22 は同じ大学のエミを遠くから見つめ続ける大学生であり、またある時の tank22 はエミに叶わぬ恋をしている同僚だった。

 

 彼はきっとはちきれんばかりの想いを内に秘めて、しかし表面的には何も起きていないようなそぶりで、毎日エミの姿と声を求めているのだろう。そして時折笑美は、 tank22 が自分を求めているような錯覚すら覚えていた。



 ――自分はそこまで強く人を求めたことがあっただろうか。





  tank22@***

  エミ

  2024/12/04 13:15



  tank22@***

  エミ

  2024/12/04 17:52



  tank22@***

  エミ

  2024/12/04 21:28



  tank22@***

  エミ

  2024/12/05 00:09


  

  ……



 この日 tank22 はエミの名前だけを幾度も幾度も呼び続け、そして完全に沈黙した。


 笑美は tank22 のホーム画面を何度も更新し続けた。果てのない時間の中で、繰り返し、繰り返し――まるで渇いた砂漠の旅人が砂を掘るように。

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