第十三話 持永紬
視点 : 持永紬
暖房がいつの間にか止まっていた。素っ裸の私は寒さに震え、身体をくの字に小さく丸まった。目を開けてみる。厚い遮光カーテンから漏れる青い光が、真っ暗な室内をかすかに照らしていた。もう朝なんだ。でも、幸せな朝だった。お腹が空いた。今日はまず、どこかでちゃんとしたご飯を食べたいな。有希と一緒にご飯食べて、少しくらいなら観光をしても良いかもしれない。ふふ……楽しみだな。
「有希……?」
ふと横を見ると、有希がいなかった。見ると洗面所の下部から光が漏れている。お風呂かな……? でもシャワーの音はまったく聞こえないから、トイレなのかもしれない。
そういえば私、お風呂に入ってない。昨日からの汗が皮膚に馴染んで、頭皮にかすかな痒みを感じる。あまりの寒さに凍えながら布団を抜け出す。ごそごそと荷物を漁って、服と下着を取り出した。そして明かりをつけないままにお風呂へと向かった。
ユニットバスだから、トイレを経由しないとお風呂には辿り着けない。そうだ、ビックリさせちゃおっかな? そっと足を忍ばせて、扉に近づく。驚いて撒き散らされちゃったらどうしよう。心配になりながらもワクワクして、変な笑みを携えながら取っ手に手を掛けた。
「ばあっ!」
「へ……?」
トイレに彼女はいなかった。
浴室にもいない。
でも、どこにいるかはすぐに分かった。
真っ白の洗面所に明らかな異物がある。
洗面所の上部に取り付けられたタオル掛け。
そこから垂れ下がる一本の縄。
そこで、
天使が、首を吊っていた。
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