第4話 しっぽのあんこ・引退する!
「おじさん、しっぽまであんこ入れてよ」
焼かれながらたいやきくんは言いました。
「入れているじゃないか」
「ちがうよ、しっぽの先までだよ」
たいやきくん、ちょっとしっぽを振りながら言いました。
「わかっているだろう、しっぽの付け根のところってたいやきで一番細いんだ
そこにあんこを入れるのはむつかしいんだ。
でもうちのは付け根までしっかり入っているんだ
それにさ、しっぽって薄いんだよ
尾びれっていうくらいで“ひれ”なんだよ、背びれにあんこはいっているか
端から端まであんこがはいっているのがいいなら“今川焼” になったほうがいいぞ」
「でもしっぽまであんこはいってますってスペシャル感あるじゃないか…」
「ふだんビール飲んでいる甘いものが苦手なパパだっているんだ
たいやきのしっぽが口直しになるし、なにより本来のおいしい生地の味がするじゃないか」
「もう、それじゃあスーパーの前のたい焼き屋さんといっしょじゃないか、家出だ!」
しっぽのあんこ問題だったり。
*****
「おじさん、いつまでたいやき焼くの…俺もうたいやき辞めたいんだ…」
夕暮れどき、人もまばらな商店街。
閉店間近、売れ残ったたいやきくんがつぶやきました。
「なに言っているんだ
俺たち今までうまくやっていたじゃないか…
今日だって小さい子供が喜んで買っていっただろう」
「俺もう引退する、たいやきとして生まれてよかったよ…じゃあね」
「どうしたんだ…たいやき! 」
海に向う道すがら、たいやきくんはつぶやきました。
空には月が煌々と輝いています。
星も少し見えています。
「おじさん今までありがとう
おじさんが甘いものが苦手なのわかっていたんだ。これからはたこ焼きかお好み焼き屋さんになって俺なんかのことは忘れてよ
今日まで本当にありがとう
けんか別れにしないとおじさん優しいからきっといつまでも俺たちを焼き続けると思うんだ…
おじさん、さようなら…」
たいやきくんは未知の海へと泳ぎ出しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます