第6話 雷貫砲と影
雷撃と比較すると、磁線にはそれなりの実用性は考えられた。
鉄は磁石がくっつくので、磁線で動かすことができる。そうすると、離れた鉄製の食器を近くに寄せるとか、鉄の扉の開閉ができるとか、そういうことができる。しかしながら、魔法でやる必要性がどこまであるかは何とも判断しにくい。
一方で銅は磁線の影響を受けない。そこで、熱作用と同様に直接的な力への転化をやってみたら、あまり強い力にはならないことがわかった。それは雷撃も同様だった。もしかすると、雷撃なら閃光時の衝撃のほうが強いかもしれない。
そうしたことから、磁線の引力を使って鉄球を引っ張って加速するとどうなるかを試してみることにした。そのために二本の平棒のレールを、カールに作成してもらったのだ。
試してみたら、思った以上にうまくいった。
初速を得るために雷撃を使い、弾速に応じて磁線を強めながら発生位置を移動させると、銃と言っても過言ではないレベルの速度で射出できた。確かに、磁線操作の負荷が少々高い。しかしながら、この磁線銃とも言うべき構成は、可搬性と威力を考慮すると武器としては充分な実用性があった。
好奇心と倫理が頭をよぎる中、マガスはもう少し深く試してみることにした。
*****
携帯性に優れる磁線銃ではあるが、大きくすることで威力が向上するか試してみた。
大きくしても威力は向上しない、ということがすぐにわかった。銃身を長くすると、速度は上げられるが磁線操作の負荷が高くなる。加速に失敗することもあった。そして、大砲のように弾を大きくすると、逆に弾速が下がり総合的には威力が下がってしまうのだ。
あれこれやって疲れて仰向けに寝る。
「こんなもんなのか……それとも、うまくやれる人はいたりするのか……」
ひとりごちりながらちょっと体の向きを変え、恨めし気に磁線を作ってみる。
そこへヴィルがやってきた。マガスが磁線を集中的に試す時は、予期せぬ事故を避けるために、お互い離れて作業している。
マガスの様子を見て休憩がてら寄ってきたのだろう。そういえば、マガスは雷撃や磁線の作用を感じることができるが、ヴィルは雷撃でさえ作用をあまり感じないようだ。この辺りも個人差があるようだ。近付いてくるヴィルを見ながら、そんなことをぼんやり考えていた。
「今日はビリビリ連発練習で、まだビリビリしてる気がするー」
ヴィルの出力も日々向上の兆しがあり、疲労を訴える割には嬉しそうに見える。不器用ながらも、雷圧を弱めて雷流を強めることもできるようになった。
「何か、この前のより大きくなってない?」
ヴィルが何気なく興味を示し、触ろうとする。マガスも疲れており、のそりと半身起こす。
練習で反復していたせいか、ようやく休憩になって話ができたせいか、気持ちの緩急でヴィルが反射的に雷圧を作ってしまう。
ガンッ!
手が触れた瞬間、小さな閃光が走り鉄球が高速で飛び出した。
弾止め代わりにしていた目の前の木に、鉄球が軽くめり込んだかと思うとそのまま静かに落ちた。思わず二人で顔を見合わせてしまった。
そして、ゆっくり近付きまじまじと覗き込んでしまう。
「これは……凄いね……」
「うん……僕らも注意して扱わないといけない……」
衝撃の直後のせいか、木々のざわめきがやたら大きく聞こえる気がした。マガスはこれを雷貫砲と呼ぶことになる。
*****
発見時と異なり、雷貫砲の砲身には磁線ではなく雷撃を通したほうが良かった。
そもそも、雷撃を通すとそれで磁線が発生する。ただし、それだけでは精度が下がるので、別途磁線を作って制御する必要もあった。また、その磁線で威力を補助することもできた。
弾も鉄球ではなく銅球のほうが抜群に威力が強い。実はきっかけはカールによる助言だった
「雷撃って雷みたいなもんなんだろう? じゃあ銅を使ってみるか?」
「銅を、ですか?」
「避雷針と避雷導線は銅で作るもんなんだよ。もしかしたら何か意味があるのかと思ってな」
「ああ、なるほど。面白いかもしれませんね」
「まあ銅であることに意味はないのかもしれん。避雷針は屋根に置くためか飾り物みたいに細工することがあるんだよ。鉄より銅のほうが飾りの加工はやりやすいからな」
理由について深くは知られていないのだが、先人の経験知として避雷針と避雷導線は銅で作った方が良いと言われていた。少なくとも、それに倣うことで雷貫砲の威力が向上したのは事実である。
*****
暑くなってきた、とでも言うのがしっくりくる頃、社会情勢が大きく動いた。
中央教団が実質的なクーデターを起こし、献槍隊を名乗る部隊が王宮と王国軍統括本部を制圧したのだ。
ヴァイサーヴァルト王国では政教分離が成立しているが、王都ファスダルグには中央教団という大きな組織が文字通り王宮の横にある。確かに、中央教団には階層的な下部組織があって、実質的には巨大な組織グループを構成している。しかしながら、地方へと離れていくにつれて末端組織のようになっており、強固な統率があるとは言い難い。
加えて言うなら、王宮の横にあるとはいっても、メーデルシアの象徴と緩やかな信仰が長年積み重なった結果に過ぎず、政権に食い込むような組織ではなかったはずだ。
しかしながら、王国内に異端がはびこりつつあるため王を保護する、との大義名分を掲げて動き出したのは事実だ。献槍隊という聖職じみた名前だが実質的に教団軍と言ってもいい。王族のファスダルギーネ家は軟禁状態となり、ついでのように王立アカデミーも封鎖された。社会システムは機能しているが国内には不安が広がっていく。
隣国とのパワーバランスの都合から、国境付近に配置されている王国軍の主力部隊を動かすこともできない。何より、統括本部を押さえられているので、しばらくは王国軍の動きは鈍いだろう。
確かに行く先不安な状況ではあるが、アルスタッドに住まう人々には遠い場所での出来事、そう思われていた。
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