第4話勇者という愚者
『《創世記 第一章》無知と神性の象徴 マダム』
世界には初めは何もないただの虚無が広がっていました。
しかし、その中に『マダム』が産まれました。
何も知らない『マダム』が宙に指で円を書くと大地の塊となり。
片手をかざすと水が注がれ海へと。
そしてその大地を見つめる瞳は月へと。
心臓に部分にある輝く宝石は太陽へと。
そして最後に『マダム』が流した涙が何千、何億を越える生命を産み出しました。
『《創世記 第二章》偉大なる二人の王』
時を越え、『光の王』と『闇の王』の戦いが始まりました。
何千年の戦いを得て『闇の王』は地下深くの牢獄へ封じ込められてしまいます、しかしそれに怒った『闇の王』は最後に『光の王』を自分の身体へと取り込んでしまいました。
その時を始まりとし邪悪な白い霧が大地を覆い人々を襲いました。
『《創世記…第三章》切り開く神性。』
飢え、争い、病、その全てに襲われる大地を、すっかり白い霧で覆われてしまって、外から見ていたら何も分からない『マダム』は心配しました。
しかし、邪悪な白い霧を自ら切り開き、自身の存在を『マダム』に教えてくれた存在がいました。
『マダム』はその者達に多大な感謝と祝福を与え。
その者達は後世に伝わる『神』となっているのです。
『《第……》……』
記述が見つかりませんでした。
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『アルカ』俺にとって目的を叶える為の最初の道。
そして俺は今日ルリさんが案内してくれる時間わくわくとした気持ちで寝心地のいいベットに座り待っている間に、白にだる絡みしていた。
「白~!今日図書館に行けるんだぞ~!」
寝転がっている白の顔をツンツンとつつく。
その行動に白は不快そうに顔をしかめるが腕の中の枕を離したくないのか手を出そうとはしてこず、むしろ少しだけ、うとうとと瞼が落ちて上がってを繰り返している。
数日しか白と一緒に居なかったが分かった事がある、それは1日の大半、白は眠そうだが夜に寝てない……という事はなく夜も俺よりもずっと早く寝る。
そしてそういう時はナイフで遊ぶ気もないのか無気力に俺にされるがままだ。
「昨日の夜に貰った飯も旨かったし、他にもたくさん美味しい者があるんだろうな!」
昨日食べさせてもらったはんばー……なんとかを思い出しながら言う。
中央にある城が描かれた旗が刺されていて、持って来てくれた人に持っていっていいかを何度も頼み込んで、その人は困った顔をしながら新品の小さな旗をくれた。
何を見ても新しくてわくわくしてくる。
「あっルリさんが来る。」
慌てて服を整え、鞄と水筒を持ち。
寝掛けている白を無理矢理立ち上がらせドアの前に陣取った。
ルリさんらしき足跡が聞こえてくると同時に小さくバサバサと翼の音がしてルリさんだと確信を得た。
「おはよ……速いなもう準備を終えているとは。」
ガチャリとルリさんが内側しか開けれない扉を鍵を使って開けた。
聞いた話ではいつもは不在が多いらしいがこの宿の管理はルリさんがやっているらしい。
だが右手が鳥の爪であるフェザーであるルリさんは何時見ても大変そうだ。
「楽しみすぎて凄く早く準備しました!」
「はは、まるで遠足で早起きする児童だな。
いや、君の年齢は児童か。」
「おれか?いまー5…7…8歳くらい?」
「ふっまだまだ子供だな。」
そんな他愛のない雑談をしながらも借りていた宿から出ていこうとする。
「……しろ!」
「白?忘れ物か。」
「ちょっと待っててルリさん!」
白がいない!!いつもついてくるから忘れてた!
「白!!やっぱり寝てる!!」
部屋に急いで戻ると床の上で白が丸まりながら眠っていた、床って固くないのか。
起きろっと頬をつんつんとつついても反応がない、ただの屍のようだ。
「あぁもう俺がおんぶしてやる、ほら乗れ。」
分かりやすく背中を提示すると、朧気に目の開いた白は背中に乗ろうともじもじと這い上がった。
「もう白は手がかかる奴だな~あっまってまっていひゃい。」
失言をした俺の頬を後ろからつねる。
お前意識無いんじゃないのかよ!
呆れて持ちやすいように白をおんぶしなお直した。
「さぁ、ルリさんの元にいくか。」
白をおんぶしながらも階段を降り、外の扉を開けた。
そこにいたルリさんは。
「……賢類人は不思議な歩き方をするのだな……。」
そういえばルリさんは白見えて無いんだね!
そりゃ可笑しいよね!はずかし!
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「ここが町の中央エリアだ、お土産などはここで買っていけ。」
「その前にちょっと椅子で休憩して来ます。」
朝早いため人は昨日よりも少ないが昨日の優しい目よりもずっと視線が変なものを見る目だった気がする!うん絶対!
そうして大急ぎで椅子に白を下ろした。
白は朝に照らされてめっっっちゃ不機嫌そうな顔をしている。
「起きたなら歩けよ、それにここにはたくさんのものがあるぞ!
自分で見なきゃ損だろ!」
白の肩をボンと叩くと白はこれ以上触るなという風に睨み付けてきた、ほんとこいつのことよくわかんねぇな。
「ふむ、君は賢類人の中でも珍しい子だな。」
「あっえっとルリさん!?」
後ろを見るとルリさんが手を口に寄せて此方をじっと見ていた。
「保護者がいない子供は見つかりしだい補導されてしまうからな、君一人をほっとくわけにはいかない。
しかし、君の不思議な行動は常の賢類人の習性ではなく、アルカにいる人々とは違う集団の習性に近いのかも知れない。
非常に興味深い。」
なんか変な考察されてる~!!!
いや違います!ここにもう一人居るだけです!誰も見えてないけど!!
「だが、今日は君の観光を手伝うという話だ。
人間観察は後に回して、さまざまな場所を案内して差し上げよう。」
すっごくありがたい。ただなんかルリさんは俺のことを何として見ているんだ……
「この椅子で休憩するなら彼処のアイスを一度に買ってからにしないか?きっとそっち方がリラックスできるだろう。」
「ごめん、アイスって何か教えてくれないか?」
アイス……あの色のついたボールみたいなやつか?あんなのも売ってるんだな。
本当にここはたくさんある。
「冷たいお菓子だ。」
「お菓子!昨日あの部屋で食べたやつだろあの凄く美味しい奴!!あれ俺大好きなんだ!!」
昨日のあの部屋にはあのボールみたいなやつはなかったがルリさんが言うのならきっと美味しいのだろう。
しかし、ふとアランのおっちゃんがくれた袋の中が気になり開けた。
もらったときと変わらない。まだ手を着けていない硬貨。
「袋の硬貨、使いすぎないようにしないと。」
昨日の出来事のあと袋は返してもらったが、それでもこの硬貨が大量にあるわけではない、それにアランのおっちゃんからの贈り物であまり使いすぎたくない。
「今日は私が保護者だからな、私が払おう。」
「えっいやでも俺にも硬貨はあるし。」
「その心許ない全財産がか?アルカの子供は城の中でぬくぬく硬貨の心配なく学生生活を送っている、君は『大切の国 アルカ』に来たんだ。
郷に入れば郷に従え、その小さい袋はそのぼろぼろの鞄に入れておけ。
行くぞ。」
ルリさんに手を引かれついて行くと、たくさんの色のついたボールのような奴が並べられた紙を渡された。
「あら~!こんな可愛い子なんて久しぶりね~!
そしてルリちゃんも保護者がご苦労様ね!
こんな可愛い子達ならどんどんおまけしちゃうから好きなの言ってね~!」
「…もう私は大人だ、子供扱いするな。」
「なぁに言ってんのよ~!
私からしてみれば二人とも肌すべすべで走り回る元気の有り余ってる子供よ~!」
「なぁ、この赤いボールの奴……食べてみたいかも。」
「なぁにボクちゃん~
あら~!苺のアイスね~クッキーおまけしておくわね!
でルリちゃんは何にするのかしら~?」
「私はこのアイスをもらおう。サービスはいらない。」
「もぉー照れなくていいのよ、ルリちゃんは立派な乙女なんだから甘いものは我慢してたらすぐに食べれなくなっちゃうわよ?」
「お節介はいらない。」
「仕方ないわね~
次来た時でもいつでもサービスしてあげるからね~」
そういっておばあさんは黄色い三角に乗ったボール……アイスをくれた。
これは本当に食べれるのだろうか。
冷えていて表面は固そうだ。
「まったくあの人自体は悪い人ではないんだがな……」
「ルリさん、これ食べられないよ。
冷えて固まってる。」
「アイスは少し溶けてからが美味しいからな、椅子に帰ってから食べよう。」
「うん。」
「アイスを食べ終わったらあの店に行くか。」
そう言われた店のガラス越しには大きな剣、弓矢、盾なんかあった。
「あれっあれって!」
「色々な旅人に必要な物を売っている武器屋だ、彼処の武器はこの国の中で切れ味が一番優れている。」
ルリさんはアイスを食べながらも説明をしてくれた。
剣、弓矢、盾なんて冒険物の本の鉄板だ!
俺もあの本みたい…に……あの本ってなんだ?
「なぁ…しろ……」
まていつの間にか白にアイス奪われてる!!!
はっや!!
「うん?もう食べたのか君は食べるのが非常に速いな、私はもう少しかかるからまっててくれ。」
ルリさんいるためあまり派手な行動が出来ず悔しい思い抱き、隣で座りながらアイスを食べる白を眺めていると白はべぇーと舌をだして俺をバカにしていた。
ほんっと覚えてろよぉぉお前ぇぇ!!
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ルリさんが食べ終え、武器屋へと向かった。
やはり剣や盾は冒険に付き物だ。
ヤバい敵をばっさばっさと斬り伏せるのは冒険本を見たことがある者ならば誰もが願う事だろう。
「いっらっしゃい。」
たくさんの磨かれた剣に囲まれて心がどきどきする、俺もカッコいいもの振ってみたい!
「なんだ、そのガキ。」
「小さいが旅人だ。
昨日勝手に国に入ってきてたがどうやら彼にとって大事な目的があるらしく保護者として付き添っている。」
「ふん、流石のバカさだな鳥頭。」
「おっさん!どちらかと言うと鳥足だよ。」
ルリさんの身体は上半身は耳以外人間の姿をしていて下半身は爪やもふもふの毛が生えているため、鳥頭とは少し違うのではないか。
「そう言うことじゃねぇよ。クソガキ。」
「喧嘩するな、お代は私が払うから彼に一つ選ばせてやれないか?」
俺とおっさんの間をルリさんがフォローするがそれは予想外の形でかわされた。
「ふん、いらん。
もうじきこの店を畳むことにしたからな。
戦争もねぇし在庫が余ってしかたねぇんだ。
適当に一つ持ってけ。」
「えっいいのか?」
「俺の気が変わらないうちに探せ。」
「おっさんいい奴だなぁ!」
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「おいガキ、お前剣は止めとけ。」
「はっ?なんでだよ!こんなにあんだろ!」
「お前の身長なら武器に遊ばれるに決まってんだろ、諦めてまだ使える短剣にしろ。」
「うっ確かに……でっでもまだ成長するし!」
「旅人は一秒一秒に命がかかるんだよ、戦場でそんなこと言ってる暇ねぇぞ。」
「ぐ、もう分かったよおっさん、短剣あるところ何処だ?」
「あっちの奥手だ。」
「おっ!結構いいものありそう!!」
あの子が短剣のあるところに走ろうとしてまたクソガキと店主が怒鳴る。
子供とは本当に元気いっぱいなものだな。
そんな何も考えていないような思考をしていると店主がおいっと声をあげた。
「あのガキ、何歳だ。」
「八歳だ。」
店主は刃物を研ぎながらも、あの子のことを見ていた。
息をのむ、それはきっと一時の保護者であっても子供の保護者として私が一番に考えなくてはならないことなのだろう。
そして店主視線を下げてため息をついた。
「やっぱり…旅人の国の理念に共感できねぇな。」
「店主…」
「お前さんだって思うだろ。
八歳のガキを一人で国境を越えさせるなんて狂ってるってな。
盗賊だって、死気だってある、途中で食料がなくなったらどうする?水がなくなったらどうする、泥水でも飲ませる気か?
泥水を飲ませたいって思うのが親か?。」
旅は危険だ。
人も簡単には信じてはいけないし、常に死を実感しながら生きなくてはいけない。
旅に出た後悔しようと、あの子はまだ子供だ。
国できまりが違うのは分かっている、この国が当たり前のことが他国ではまったくやらないことでも何も可笑しくなんてない。
だが本当にあんな小さい子に責任なんてあるのだろうか?
「気持ちは分かるが、これはあの子の意思だ。」
…それでも国が違うのならばその国の子供として育てるべきだろう。
「……そうだな…お前の言ってることも分かる。
だがお前も知ってるだろ。
俺は国境の外に出たことがない。俺が一番分かってんだ俺が研いだ刃物だってそこら辺の草数枚切っただけで国一番名乗っても実践に使えるわけないってな。」
「……」
「……いつもこの国に訪れた旅人が言うんだよ、俺の研いだ奴が一番綺麗だって。
だけど俺の剣を買った奴も盾を買った奴も二度も来てくれた奴はいねぇんだよ。
きっと全員死地に行っちまったんだよ、俺の使えねぇがらくたのせいでな。」
「卑下しないでくれ、それは彼らの意思だ。
きっとその彼らも貴方の素晴らしい武器を最後の最後まで握っていた筈だ。」
そう言葉にするが、本当に思っていることは違う
……あんな小さな子に好きな武器を選ばせている私も加害者なんだろうか。
駄目だ、彼が望んでいることを邪魔してはいけない。
あの子はこの国の子供ではないんだ。
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「なぁおっさん!!これくれないか!」
「あぁその短剣か構わん持ってけ。」
「ありがとな!」
そういうとおっさんにありがとうございますだと修正され苦笑いを浮かべた。
だが!短剣、短剣!俺の短剣!白が持ってたけど人の物を使うのは申し訳ないからな!
利き手で持ち空気を裂くように動かすと、シュッと耳にいい音が聞こえて凄く嬉しくなってしまう。
「おっさん!これホントにいい短剣だな!
俺おっさんには感謝してもしきれないよ!」
また短剣を遊ばせた、楽しい!楽しい!
「おいクソガキ、あぶねぇだろ。
振り回すな。」
そう言われて気付いた、誰かに当ててしまったら大変だ。
ごめん、とおっさんに謝るとごめんなさいだ、と修正を入れられる。
「あれ?ルリさんは何処にいったんだ?」
「ああ、あの女なら一瞬外の空気を吸ってくるらしい。
あと一つ、ガキこっちこい。」
ルリさんは外に出たのか、せっかくもらった短剣を自慢しようと思ったのに。
そう思い少しムスッとした顔でおっさんのもとに近寄った。おっさんは何もわるくないんだが。
「なんだおっさん!」
「お前、旅人なら死気ってのは知ってるよな?」
ほんのちょっと聞き流そうとするがおっさんが言った言葉は俺が知らない言葉だった。
……死気?なんだそれ。
「死気ってなんだ?おっさん。」
そう聞き返すとおっさんは明らかに不機嫌そうな顔をして俺を小突いた。
なんで!?俺が悪いの?
「知らねぇなら頭に刻んでおけ、低い白い霧には気をつけろ、特に周りが灰色なところだ。
そして霧の中にいるヒトガタには絶対に近付くな。」
「霧の中のヒトガタ?」
「声をかけても返事がないなら、そいつは人間じゃない、死体だ。
生きてないけど身体だけは動く死体、絶対に近付くな。」
死ぬぞ。
確実にそう言った。
聞き間違いではない。
「分かったおっさん、ヒトガタには近付かない。
でも返事があるならヒトガタじゃないの?」
「さぁ会ったことは無いからな。」
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あれから白と、戻ったルリさんに連れられて城を通り念願の図書館に連れてこられた。
「ここが図書館か!?」
まるで一つの世界に入り込んだように広く高い天井、それに一つの寂しさも感じさせぬ程に照明が全て場所を照らしていて。数多くの本が色んな棚に納められている。
その本の数はまるで一つの城さえ建ててしまえそうな程に広く広範囲に納められている。
「ああ、ここが『アルカ』が誇る。
膨大な泡沫の記憶達の図書館『神宝クロニクル』だ。」
この図書館、神宝クロニクルはどうやら2000年以上も前の事さえ載っている本があるというのだ。
そんなにも前から……
「ここにはその名前に似合った数の本がある、知りたいことがあるならこの場所が一番いい。」
淡々と言うが最後に、しかしと釘を打つ。
「しかし?」
「知りたいことが載っている本が見つからないという事象がおきる。」
「OKだ!!一週間でも一年でも調べてやるぜ!!」
「…私にそんなに時間はないのだが……」
……まぁこの本の数なら仕方ないだろう。
取り敢えず一から探して行くしかない!と気合いを入れると白もルリさんも明らかにドン引きしていた。
何それ酷い!
しかし、問題はそこではない……そこではないのだ……
俺が本棚に近付き、タイトルを見ようとするのだが……
「ルリさん……」
「なんだ怖じ気づいたか?」
「読めない……」
「はっ?」
「俺この文字読めない……」
「はぁ!?」
明らかに驚愕しているルリさん。
そりゃあそうだろう俺もそう思った。
だって、うん……
知らない文字だこれ……
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「これは文字は少し特殊だが大多数の文脈の最後にも用いられる為覚えておけ。」
「へへ!ありがとな、先生!!」
あれから数時間程ルリさんにアルカの文法?を教えてもらっている。
最初に、アルカでは何かを教えてくれる人の事を先生と言うのだと教えてもらった!
しかし、必死に覚えようとはしているし何度か教えて貰っては居るのだがあまりに多すぎるため、言われた事の半分くらいは聞き返している。
それに対して優しく、また教え直してくれるのだからいい人だ。
「じゃあ次は気になる本を持ってきてくれ、実践も交えて教えてやろう。」
「そうだな!じゃああっちで探してくる!!」
気になる本……欲を言えばこの図書館にある全ての本が気になるのだがそれを言い出せば仕方ない。
後悔しない一番気になる本を探そう。
そう思い少し薄暗い本棚の前にくる、ここはあまり近く照明からは他の沢山の本棚が死角になって見えないが薄汚れた古そうな本が他よりもあるため過去の事を調べられるのではと思ったのだ。
「えっと、これは【…気の……】、こっちは【付…神の神…】……
大体の文字が読めないな……」
仕方ないとはルリさんが言ってくれたが流石に啖呵を切ってまで来た図書館で何も読めないというのは……
だが白と会った最初の時の…楽園と言う字は読めたはず。
そういえば、あの時の文字とはいったい何の文字だったのだろう。
っていうか白はどこにいる……!!!???
図書館でルリさんに文字を教えてもらい初めてから見ていない!!
どこにい…って!!!?
「……!!」
「……あっぶなぁ!!!」
ガゴンッそんな音が床に落ちる。
分厚い本が床へと落ちた音だ。ついでに白も転んでいる。
そうなっている要因は白が勢いをつけて俺の後頭部を狙い分厚い本を振りかざしたからだ。
こいつ、さっきまで居なかったのに……
「……おい白、叱りたいのは山々だがここは図書館だから静かにし……?」
白が俺に打ち付けようとした分厚い本を拾おうと手を伸ばす。
だが、その薄汚れて見にくくなっているタイトルを見て驚いた。
「っ、この文字読める。」
【創世記 第六章】……?
それを白は持ってきてくれた。
他とは違う文字で綴られている本は何処と無く異彩を放っていた。
「これ……白が持ってきてくれたのか?」
白は、立ち上がりぱっぱっと服に付いた埃を払いながら鞄から一つの『楽園』という本を取り出して二つの本のタイトルを交互に指をさした。
「同じ文字だな……」
違う文字ではあるのだが文体が少し似ており、ある程度の人ならば分かるようになっているのかも知れない。
「なぁつまり俺も白の持ってる本、読めるのか?」
そう言うとあからさまに不快そうな顔をしてザーっと距離を取られる。
「ああっ!すまん、とりあえず持って来てくれてありがとな!だが渡し方はもうちょっと優しくしてくれ。」
ルリさんを待たせていると急いで本を抱えて早足で向かうと白も確実に距離を取りながらついてくる。
もしかしたらこの本の内容が気になるのかも知れない。
「すまん遅くなった。」
「いや気にするな……その本は……」
ルリさんが僕の持ってきた本に驚愕の声をあげる。
「すまないがその本の文字は私は分からないんだ……」
「これは、っ俺が読める文字だったので。」
そういえば実践を教えてもらうはずだった、しかしこれはその想定とは違う文字だったのだろう。
申し訳なさそうに言ってくるのを見て少し申し訳なくなった。
しかし。
「君が読める文字なのか?」
「っへ?!あっはい、」
意外に食いついて来た。
「私に内容は分からないが文体はジェネシス語に似ている、しかしこれは現代に出回るジェネシス語よりも古いものだろう。
ならば、出来ればでいいのだが内容を教えてくれないか。
少しこの本に興味がある。」
「!!分かった!」
そんなに大きい声を出すなと注意されるが少し張り切ってしまう。
僕がコルリさんの隣に座ると近付いて来ていた白が僕の隣に来て、両隣に挟まれる形になっていた。
机に本を開くと黄ばんだ紙と少しの埃がパタパタと落ちてった。
そして物語を声に出して読み始める。
分かる、この文字は。
【《第五章》堕ちた勇者】
邪悪な白い霧を振り撒く忌まわしき魔王を勇者が倒し、勇者の国の中心として世界を統治し始めた。
魔王に遣えていた魔族は散り散りになり、邪悪な白い霧は数を減らした。
しかし勇者は力に溺れるようになった。
最初に人々を殺した。
気に食わない、気が使えなかったから、そんな理由で女も子供も。
勇者は産まれ育った自国を滅ぼし、様々な国々を襲って。
神を殺した。
楽園を滅ぼした。
勇者とは神殺しの象徴。
勇者に殺された人々は数えきれない。
勇者は居てはならない人間だ。
それからはずっと、犠牲者なのかたくさんの名前が刻まれている。
この何百枚も重ねられた本に犠牲になった人々が記録されている。
勇者が…楽園を滅ぼした?。
いや、楽園の前に自国という言葉がある。
楽園は勇者の故郷であり、勇者が故郷を滅ぼしたことで楽園を滅ぼしたということなのか。
それとも、楽園と故郷は別?
そんな思考を巡らせる一方でルリさんははぁっとため息を吐き、そちらを見やる。
「……私は宗教に詳しい訳ではないし過去の物に思う物もない、だがこの本に書かれている通り『勇者』という存在は。
聞いていて良い顔をするものはいないだろうな。
勇者とは、今を生きる人々にとっての悪の象徴だ。」
冷めたように、関わりたくないように、他人事のように。
そう言われた言葉に、俺には少しの違和感があった。
「……勇者っていうのは『英雄』って奴じゃなかったのか?」
そう知っているはずだった。そう学んだはずだった。
でも言葉に目を見開いたのはルリさんではなく白だった。
見開いて、ぶるぶると肩を震わせている。
白い目が飛び出してきそうなくらいに見開いて、いつも縫われいたように開かなかった口を、動揺の限りを尽くして開いて、今までにない事だ。
「……『勇者』は二千年以上も過去の物だ…」
その言葉を静かにルリさんが発した事で白と俺はびくりと震えてルリさんに視線を向けた。
「忘れろ、勇者の話なんて聞いたところで良いことはない。
そして勇者を『英雄』なんて美化する思想は良くないものを引き寄せるぞ。」
ルリさんが本を畳んで冷めた目で此方を一瞬見た気がした。
しかし、すぐに張り付けたような温和な顔に変わった。
「すまない、少しびっくりさせてしまった。
あまり案ずるでない、知識を得ることは何も悪いことではないからな。
君が知りたいと思ったことならば誰かが害することは許されてはならないんだ。」
ルリさんは安心させるように俺の頭を撫でた。
それに対して白はびっくりしたようで何故か俺に軽蔑の目を向けた。
なんだおまえ
だがまだ一つルリさんには聞くことがある。
「あの…ルリ…さん。」
「……あぁ。」
隠しているつもりなのだろうが明らかに嫌そうな顔をするのが分かる。
酷く陰鬱な空気が揺蕩った。
「『勇者の故郷』を知っていますか…?」
「あぁ。」
図書館に響かない静かな声で問う。
聞かれることが予想出来て居たのだろう。
返事は呆気ないものだった。
「普段なら絶対に言ったりしないが、愚かな旅人は命懸けでも、死にかけでも目的の為ならばいつか行き着くからな。
それは時間の無駄だ。」
「……前も見たことあるみたいなこと言うんだ。」
「見たことがある。
私は嘘をつかない。一度しか言わない。」
朝とは違う単調な口調で冷めた声。
「『イグナロス』、事実かは知らないがな。」
「……!」
アランのおっちゃんに教えて貰った場所だ。
イグナロス、何もないところだと、誰も帰って来ない場所だと。
「私はここに入り浸っているからな、多くの歴史書を読み、擦り合わせ、考察した結果だ。
しかし、勇者のことを考えることこそ邪気に染まると敬遠されているから今まで話すこともなかったし。この図書館は勇者の本は多く処分されている為にその本が残っていることすら知らなかった。」
イグナロス、そこが勇者の故郷、楽園の可能性がある。
いや詳しく言えば違うのだ。
俺が勇者の故郷は厳密に記された本を見たわけではないし、この図書館の勇者の本が大量に処分されたとルリさんは言っていた。
そして、勇者の故郷を楽園と断定するのも速く、一文に記されたというだけで可能性は低いだろう。
だが、イグナロスが謎なのも本当で人からの情報が一切なく、俺達のように外からは見ても見えない九割以上が隠されている。
「本当にこの会話はもう終わりだ。
私は少なくとももう関わりたくない。」
そう啖呵を切り、ルリさんは立ち上がった。
「ルリさん……!あの…俺…」
「…気になるのか?」
「はい……」
少なくとも……ここに目的の手立てがあるのなら、行きたい。
「はぁ、仕方ない。
何が知りたい。」
武器屋へのおっさんが言っていたこと、死気に気を付けろ。
「イグナロスを覆う霧は、死気ですか?」
「ふん、やはり行くつもりだったな。
第二の授業だ、教えてやるイグナロスを取り囲む、白い霧、死気をな。」
ルリさんは語ってくれた。
死気を吸った人間はすぐに死ぬわけではなく、死気を長期的に吸い続けることが死ぬ原因になること。
その期間は、大人で1ヶ月半、子供で3週間程であり、それからは死染病に陥り、意識の混濁、吐き気、めまい、様々な死の症状の末に3日程で死に至る。
そして最後は…死したあと、ヒトガタになる。
「ありがとうございました!」
「……本当は教えたくなかった。」
「教えてくれてありがとうございました!」
おっさんが言ってた本当に感謝伝える時はありがとうございました、だって。
ふと時計を見ると、時刻は2時を周り始めたばかりだった。
「あの!この後ルリさんに手伝って欲しいことがあるんだ。」
「……ふん、渡り鳥にも程がある。」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
それからは新しい鞄を買ってもらったり、食料を鞄に蓄えたりと1日を通して大忙しだった。
一度宿に戻ったりもして、陽がくれる頃には白は疲れ果てて動きたくない広場の椅子で寝っ転がっている。
「本当にルリさんにはお世話になりました!」
「やはり夜のうちに出ていくというのか?」
今、心からわくわくが止まらず、身体が疼いて仕方ない。
「はい、今もなんか心のどきどきが留められなくて。アルカが嫌って事じゃなくて!
みんな優しいし、面白いし!大好きだけど!
これも旅だから、名残惜しくなるなったら戻ってこれる。
でも、旅は進まないと戻れはしないからな!」
「来た時は何時でも君の保護者になってやろう。」
「イグナロスのことで何か分かったら絶対に帰ってくるからな!
そしてたら観光をもっと手伝ってくれよ!」
「ふん、君のその自信だけは戴けないな。
帰って来ないくてもいい、死ぬなよ。」
「当たり前だ!目的を果たさず死ぬかよ!」
「だが意外と……満月の日に出ることでマダムが特別に見守ってくれるかもしれないな。」
「マダム?」
聞きなれない言葉だ、見守ってくれているのかと周りを見渡すがやはり誰もいない。
「ほら空を見ろ。」
「あれは。」
すっかり夜に溶けた空に二つの瞳が照らしてくる。
いいや、あれは二つの満月だ。
「月は、マダムが私達を見守ってくれている瞳だ。
月は、何時だって見守って私達の幸せを願っているくれている。
だから。」
ルリさんはくるりと回って背を向ける。
そして俺を見ないで歩き始めたのだ。
「月が落ちる前に先に行け。渡り鳥。」
「……」
ルリさんが遠くにいく、もう手を伸ばしても届かない。
だが、その必要はない。
俺が渡り鳥であるのなら、絶対に戻ってくるからな。
「っよし!じゃあ白!国を出るぞ!」
立つ鳥跡を濁さずに。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
渡り鳥が去って翌日。
私はカーテンで日光が遮られ、外からは一切見えないであろう執務室に二人の客人を招いた。
「君の望んだ品はこれだろう?」
装飾の付けられた喪服のような服に頭にかけられた黒いベール、その下に透ける一つ結びの赤毛と整えられた赤毛の猫の耳が女性的な印象を与えてくる。
しかし、声は低い男性の声であり相反する不気味を感じる。
だが彼から見せられた品は、私にとって喉から手が出るほどほしいものであった。
「『不死鳥の羽』だと……」
色鮮やかな赤を匂わすその羽を私は見たことはない、しかし、その羽の揺るぎない価値を知っている。
「はかせー、ここくらい!やだ!」
舌足らずの元気な声の元はもう一人の客人だ。
シャツを着て下にチェック柄のスカートを履き、手足は黒いレースで隠された不思議な服装の、一つ結びの青毛の満月のような瞳を持つ女の子。
「四季、契約の時は口を出すなと教えた筈だが。」
まるで娘を叱るように呆れた声をあげて会話をする客人達。
異質だ。
「すまなかった、私の躾不足だ。」
赤毛の猫はそういって私に向き合った。
「さぁ梟の子よ、取引を開始しよう。」
取引、私の前に絶好の餌の用意しどれだけ搾り取ろうという気が丸見えだ。
「私は新しい契約方法はよく知らなくてな、その為梟の子には私の方法で付き合ってもらうことになるが、それでもよいか。」
拒否られるとは一切思って居ないのだろう、そもそも同じ土俵すら立っていないのだ、私は彼を断れない。
「あぁ」
……取引の内容は恐ろしいものだった。
しかし、それを断ることなど出来ない。
本当に愚かで滑稽な私だ。
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情報メモ
『勇者』かみごろし、生きてはいけない
『マダム』世界の創造主。
『死気』━━━━
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次の更新予定
2026年1月4日 12:00 毎週 日曜日 12:00
白と楽園を探す旅 不憫な紫 @8961
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