フーリエ変換、納得してますか?

ジャパンプリン

不安がなくなった日

フーリエ変換。

数学の得意な方からすれば、アンタそんなことも分からんのか?と言われるかもしれません。しかし、工学畑の私には意味不明で、どうやら周波数空間という謎の空間が存在するとのこと。しぶしぶその世界観を受け入れることにしました。


そして、この理論に基づく「FFT」なるものを使うと周波数解析が出来る。振動の解析に使えて便利な道具だね、くらいの認識でのらりくらりと仕事をしておりました。


ある時、諸事情あってウェーブレット変換なるものに強い興味を持ち、自分でもやってみようと考えました。乗るしかない、このビッグウェーブに、といった勢いです。一念発起して専門書を何冊か買い集め、勉強を初めました。そして、気づいたのです。


コレ、まず先にフーリエ変換理解しないと無理じゃね?


と。

幸い、私が手に取った中で最も高価だった本(\13500)にはフーリエ変換の解説も乗っていたので、改めて解読を試みます。それと並行して、やっぱ計算を理解するならプログラミングだよね、とC言語でフルスクラッチの計算プログラム制作に取り掛かりました。この試みは成功し、無事、自前のFFTサブルーチン完成にこぎつけました。そして、気付いたのです。


フーリエ変換って、離散化したらただのベクトルの内積取ってるだけじゃん


と。

具体的には、離散的な時系列信号を超多次元ベクトルの成分を棒グラフ表示したもの、と考えると私にはしっくり来ました。これはつまり、スパイク信号をその時刻スタンプに割り当てられたベクトル成分とみなす、ということですね。そして、正弦・余弦波も同様にただの成分棒グラフと思えば、やってることはただの内積計算です。そして、正弦・余弦波の周波数を変えて内積を取り直す。これを繰り返すと、周波数に応じて『内積』がどう変化するか、がわかる。これを世の中ではスペクトルなどと呼んでいるのですね。


そして、周波数の異なる正弦・余弦波同士は、これらをベクトル成分とみなすとどうやら全て直交しているらしい。とすると、コイツらは直交基底とみなして良さそうだ。つまり、


フーリエ変換とは、離散化してしまえばただのベクトルの基底変換じゃないか


と、妙に納得したと言いますか、腑に落ちた感覚がありました。また、このような視点に立つと、途端に「フーリエ変換」の世界の見え方も変わってきました。フーリエ級数展開は、有限周期の制約を残したままΔT→0の極限を取ったもので、連続フーリエ変換は周期を無限大に飛ばしたもの、といった解釈です。ガチの数学屋さんからしたら、そんないい加減な、と怒られるかもしれません。しかし、工学の人間としては、まあこんなものでいいかな、と。


「ただの基底変換」と思えるようになってからは、



Q:なんでスペクトルってこんなギザギザなの?


A:時間の概念がない、周波数と位相だけの世界に無理やり置き換えたので、時間依存の信号がノイズのように現れているだけです。



といった具合にスペクトルの見え方も随分変わりました。つまり、時間という自由度を落とした結果、規則性が失われてランダムノイズのように散らばってしまったのだな、と。


そして、ついに本命のウェーブレット変換です。ただ、これも結局は内積計算とみなしても差し支えなさそうです。ただし、フーリエ変換とは明確にアプローチが違うなと思いました。例えるなら、フーリエ変換とは、2次元のベクトルを直交する二成分に分解する作業です。他方、ウェーブレット変換は分度器を当てて、あらゆる角度から一番合うところを探す、そんな具合ですね。なので、ウェーブレット変換の結果は曖昧というか、ふわっとしてるなあ、というのが率直な感想です。


時間と周波数、両方カバーできて、表現力が上がったのは良いんですが、その代償として厳密性や効率を犠牲にすることになった、ということでしょうか。結局、道具は目的と使い方次第だよね、と身も蓋もないと言いますか、振り出しに戻されたような気分になってしまった一連の学習でした。一番の収穫は、フーリエ変換に不安がなくなったことだった。そんなオチです。

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