第2話

「だって昨日は『お前を守りきれる自信がない』って……」

 

「あれは……! ユウトを失うことが怖かったんだ」

 

「てっきり僕は見捨てられたのかと……」


「そんなわけ無いだろ。俺は本気だ。お前と離れたくないんだ!」


「うそでしょ。ルチアが……僕を?」


「本当だ、頼む! 俺を一緒に連れてってくれ。俺はお前が好きなんだ……」

 

 目を潤ませたルチアが懇願するように手を握ってくる。

 

 彼女らしい熱い告白だった。真っ直ぐな彼女の気持ちが伝わってくる。

 

「そ、そうだ。連れて行ってくれるなら交通費は俺が払う。こう見えても金はしっかり貯めてきたんだぞ」

 

「ルチア……お金は払わなくていいよ」

 

「そうか……そうだよな……こんなガサツな女なんて、好きになってくれるわけないよな。ハハッ、馬鹿だよな俺」


 寂しそうにそう言うと、ルチアは僕に背を向けた。

 

 あーこれ、勘違いしてるやつだ。

 

「まってよ。そういう意味じゃない」

 

 誤解して帰ろうとするルチアの腕を掴んで、慌てて引き止めた。

 振り向いた彼女の目には薄っすらと涙が滲んでいて、思わずドキッとしてしまう。


「か、彼女との……初めての旅だったら、彼氏である僕に、お、奢らせて欲しい……なと思って」

 

「ユウト……お前、それって!」

 

「うん。ルチアのことはす、好きだよ。でも、まだルチアのことを女性として好きかどうか、本気なのか、よくわからないんだ」


「お、おう。そうだよな。突然だしな」


「でもそれは……! これから気持ちを育んでいけばいいと思って。こっ、こんな僕で良ければ、よろしくお願いします」

 

「ユウトっ!」


「ぐはっ!!」

 

 力のあるルチアが勢いよく抱きついてきたから思わずよろけてしまった。それでも僕はなんとか彼女を受け止めて、男としての役割を全うした。


 彼女の体温とが、じんわりと伝わってくる。

 

 男っぽい喋りかたでショートカットのルチア。

 

 よく鍛えられた引き締まった身体をしているけど、見た目は……全然男っぽくない。


 むしろ抜群のプロポーションなので、その……セクシーなお姉さん系だったりする。

 

 そして彼女は胸が……人よりもかなり大きい。


 さっきからルチアの身体でも1番柔らかい部分(え~と、その、胸です)が、グイグイと僕に押し付けられていて……なんていうか幸せで……もう本気で惚れそうです。


 落ち着け僕、こんなことでグラグラしてたら彼女に申し訳ないぞ!

 

 ◆


 実家へ向かう馬車に乗っている最中は、ずっとユウトと手を握っていた。


 これが恋人か……ドキドキするぜ。


 せっかく2人きりだと言うのに緊張して喋れやしない。

 

 俺にできるのは手を握ることくらい。それでも恥ずかしいのに……まあ充分幸せだけどよ。


 ユウトの体温が、掌と指を通して伝わってきやがる。

 コイツの手は冒険者としては柔らかくてきれいだ。

 

 はっ!?


 俺のゴツゴツした手なんか握らせちゃって、大丈夫かよ?


 まさか。き、嫌いになったりしないよな?


 心配になってユウトを見ると、視線に気がついたのか俺と目が合う。


「どうしたのルチア?」

 

「な、なんでもねえよ……」


 っ~~!! 目があった途端これだよ。恥ずかしくってまともに喋れねえぞ。

 

 くそ、どうしちまったんだよ俺。さっきまであんなに気軽に話せてたってのに。

 

 もう顔が熱いのなんの。赤くなってないか気になるじゃねえかよ。


「実家についたらルチアのこと、その……両親に紹介するね」

 

「そ、そ、そうか。よろしく頼む……ぜ」


 マジか。両親に紹介……? やべえ、もっと緊張してきた。

 

 でもよ。ここで好印象を残せればさ、もしかしたら……お、お嫁さんになんてことにも、なるんじゃねえの??

 

「お、俺は、その、お前とずっと一緒にいるつもりだから……そうしてくれると嬉しい、ぜ」

 

「うん」

 

 ユウトは顔を真赤にして、そう言って微笑んでくれた。

 

 何だこの生き物……かわいいだろうがよぉぉ。


 くう~、早くユウトの家に着かねえかな。両親にも俺を認めてもらいたいぜ。

 

 ◆


「ただいま」

 

「あらユウト! 突然どうしたの?」


「あの、実は冒険者やめようかと思って」


「そう、大変だったわね……」


 母さんは深く追求することもなく僕を受け入れてくれる。コレが家族の優しさか。


「しばらくうちにいてもいいかな?」


「もちろんよ。遅いわって話していたところなの」


「母さん、実は紹介したい人がいて、こちら恋人の……え? 遅い?」

 

「そうよ。婚約者さんが先に来て待ってるんだから。お父さんも喜んじゃって大変なのよ」

 

「はあ!? 婚約者?」


 母さんは言いたいことだけ言って中に入っていった。

 

 玄関前に残されたのは僕と……激昂したルチア。

 

「おい、ユウトぉ……どういうことだ!? まさか、俺はお前に騙されて……」


 怒ったと思ったら、今度は泣き出しそうになっている。

 

 いやいやいや。僕は無実だって!

 

「ち、ちがうよ。婚約者なんていないし! 彼女だってルチアが初めてなのに!」

 

「そ、そうか。じゃあ……何なんだ?」


 何なんだと言われても……全く心当たりがないんだけど。

 

「先に入って確かめてくるよ。もしかしたら母さんたちが詐欺師に騙されてるのかも」

 

「なるほど……じゃあ、俺はここで見張っておくぜ」


 ルチアを残して居間に行くと、父さんと若い女性が談笑していた。

 相手はうっすらと紫がかったロングヘアーで上品な話し方の女性。

 

 この人が詐欺師……ん? 聞き覚えのある声のような?

 

「おお、ユウト帰ってきたか! こんなべっぴんさんを捕まえるなんてお前やるな」


 父さんが陽気に笑っているけど、とても笑える状況じゃない。

 

 その人は詐欺師なんだってば。


 あれ? いや、でも……この後ろ姿……誰かに……似てる……気がする。

 

 僕の勘違い? だってその人は……こんな場所にいるはずがない。


 戸惑いながら身構えていると、女の人が振り向いて僕に話しかけてきた。

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