第7話 番外編「休憩室のふたり」episode3.ちぐはぐなふたり(波多野/倉田)
倉田さんと休憩室で一緒になるっていうのがレアすぎて、いったん会話が途切れたあと何喋っていいか解らん感じになった。そしたら急に倉田さんが、私は波多野さんには幸せになって欲しいんです、とか言い出すから、飲んでたお茶ちょっと吹いた。
「急に何言うんですか倉田さん」
咳込んで、ティッシュ取って拭きながら文句言ったら、ああ、すみません、って謝るし。
「すみませんも何も、私、今けっこう幸せですよ。健康やし仕事楽しいし、ソムリエ試験受けるっていう目標もできたし。毎日、充実してます」
いえ、そういうことではなく、と、倉田さんはまだもごもご言う。
解ってるで。倉田さんがどういうこと言おうとしてるんかは、ちゃんと解ってます。
結婚して三十年経っても仲いい夫婦やったら、結婚はいいもんやって思うんやろう。
北澤がバーカウンターに来て私にうだうだ喋ってんのを、あたたかい笑顔で見守ってくれてたんも知ってる(北澤とお似合いみたいに思われるんは心外やけど)。
けど基本的に、私は一人でいるのが好きやねん。
たまにうっかり誰かに惚れたりっていうのがないわけちゃうけど、ずっと一緒にいると息が詰まるっていうか、どんだけ好きな人が相手でもそろそろ一人にして、って思ってまう。北澤と斉藤くん見てると、私生活も職場も一緒であんな仲良くくっついてられるんすごいな、と思って感心する(っていうか呆れるわ)。
まあ斉藤くんやったら家におっても邪魔にならんやろうし、ちょっと座敷童みたいな感じで可愛いかもしれんけど、北澤がおったらぜったい鬱陶しいやん。ずっと話しかけてきそう。そんで無視したら泣かれそう(っていうかその泣き顔見たさにずっと無視してまうわ)。
あ、倉田さんのこと忘れてた。
「まあでも倉田さんが私の幸せを願ってくれてはるっていうのは、心に留めときます」
そう言うと、倉田さんは親戚のおじさんみたいな顔をした。
親戚のおじさんみたいな顔ってどんな顔やねん、と言われても、ほんまに親戚のおじさんみたいな顔やってんからしょうがないやん。見合い話とか持って来んといてや、と思った。
「波多野さんは、年下の男性というのはどう思われますか」
「いや年齢はそんな、気にしませんけど」
北澤も一応、年下やしな。
「例えば、二十二歳では?」
いやそれはさすがに離れすぎやろ。仮に私が良くても相手が嫌がるわ。
そこではっと気づいた。
「倉田さんそれもしかして、相原くんのこと言うてます?」
「あ、ええ。まあ、はい、そうですね」
目の前の倉田さんが急に、親戚のおじさんじゃなく宇宙人に見えた。
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