第8話 番外編「休憩室のふたり」 episode4. 危険なふたり(鏑木/相原)
ずいぶん無防備に眠るんだな、と思った。
ここシャリオドールの、専任のパティシエ。俺と同い年だって倉田さんは言ってたけど、とてもそうは見えない、下手すれば中学生くらいに見える(金髪の)。
クリスマス・イヴに初めて喋ってから、俺の出勤するタイミングで相原くんが帰ろうとしてて休憩室で顔を合わせるっていうのが何度かあって、「おないだし、タメでいい」と言われて、今ではお互いタメ口になっている。
だけどこんな寝顔を間近で見るのは初めてだった。
ナチュラルにオレンジがかった薄い唇がほんのちょっと開いてて、その隙間から白い歯が見えてる。
年齢もだけど、あんな完璧なスイーツを作るパティシエにはとても見えない。自分自身がなんか甘いクリームでできてるみたいな柔らかそうな肌をして、見てるとちょっと触りたくなるっていう。
「けど、性欲なさそうなんだよな」
思わず口に出して、うわこれヤバいやつ、と思って俺は速やかに向かい側のソファに避難した。座って天井を見上げて、ため息を吐いた。
「興味あるの」
空耳かと思うような声と言葉。
俺は跳ね起きた。
相原くんが、片目だけ開けてこっちを見ていた。
「え、はい? や、あの」
相原くんは唇の片側だけで笑った。
「はいって言った」
ああもう完璧、ヤバい奴のヤバい発言聞かれたよ。
詩音さんの経過があんま良くなくて、入院したり実家に泊まったり繰り返してて、俺はいま心配で情緒不安定になってて、それからちょっと寂しいのだ(病院なら毎日行くけど詩音さんの実家は俺はちょっと行きづらい)。
そんで北澤さんとの時に気づいたんだけど俺、男相手は浮気認識してない。
口に出したら炎上必至なのは解ってる。詩音さんにも絶対言えない。絶対言えない時点で浮気だろって言われるだろうけど、でも俺はあの時、躊躇いも罪の意識も背徳感も感じなかったし、実を言うと今の時点で、特に後悔もしてない。
北澤さんの言った通り、あれはクソつまらないB級ホラー映画に代わる「他の娯楽」だったんだから。
「だいじょぶだよ、しおんさんには内緒で、遊ぶだけなら」
相原くんは寝起きのあどけない顔のままで、そう言ってきた。
神様、と俺は思った。どうかこの誘惑に打ち勝つ強い力を、俺に授けて下さい。
シャリオドールのクリスマス後日譚&番外編☆ 奈倉柊 @hiiraginakura
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