第2話


 公式サイトを見ながら。

 世界最大のゲームセンター”ゲームシティ”。

 そこは、全てが体感型ゲームとなっている。


 ハチの巣のように詰められたカプセル型のマシンに入ると、人の意識をゲームの世界へ飛ばすことができる。

 あたしたちは仮想空間――ゲームの世界で新しいゲーム体験をすることができるのだ。

 最新技術が集まった、新時代のゲームセンターだ。


 二年前までは一部の会員しか入れない試遊専用のゲームセンターだったみたいだけど、一年の改装を終えて、やっと一般人も入れるようになった。

 場所はお台場……、あたしたちからすればとても近いアミューズメントパークだ。


「スーパーバスケットはバスケでありながらなんでもありのゲームになってるの。世間の興味もそっちに流れてるし、現役選手はまだ現実のバスケに夢中だけど、次世代の子たちはスーパーバスケットに触れてるって話。……ゲーム空間の体験を現実のバスケに活かすこともできる、って意見もあるみたい。その逆も、なんだけどね」


 今後、主流が入れ替わるとするならば。

 今から始めて極めたら、いつかは――。


「……舞夏が上手くなって……つまりそれってさ……、スーパーバスケットに流れてきたバスケ少年たち――お兄さんを陥れたチームメイトよりも強くなって、復讐してやろうってこと? 可愛い仕返しだけど……でも本流は、あくまでも現実のバスケなんじゃないの?」


「今は、だけど、どんどん競技の規模が変わっていってるの。今じゃ話題に上がって盛り上がるのはスーパーバスケットの方だよ。絵的にも映えるしね。……現実のバスケなんて時代遅れ、なんて声もあるくらいだし。今は断然、スーパーバスケットが人気だね」


 ネットニュースを探せば、『スーパーバスケットのプロ選手が誕生した』という記事があった。誕生、と言っている時点で発展途上だけど、これがゆくゆくは主流となるはずなのだ。

 遅れて乗ったら手遅れだ。

 乗るなら先がどうなるか分からない、今だ。


「極める、って簡単に言うけどさ……簡単じゃないでしょ。当然さ、バスケ経験者の方が強いんだよね?」


「そうかな。まあ、まったく関係ないわけじゃないけど……、経験があるからこそ引っかかる部分もあるんだよね。同じように見えても違うところがたくさんある……、現実とゲーム世界は違うってことだよ」


 現実で上手いからと言って、ゲーム世界でハイスコアを出せるわけじゃない。


「その逆の方を聞いたことあるけど……ふうん、面白そうじゃん。ねえ、わたしもついていってもいい?」

「いいけど……遊びじゃないよ?」


「わたしも本気で付き合ってあげる。舞夏がここまでやる気を出すなんて珍しいよね」

「よね、って、長い付き合いでもないでしょ……」


「それだけ、お兄さんにされたことが許せないんだ?」

「……当たり前でしょ」


 許すわけがない。

 相手が謝ったところで、あたしは許さない。――絶対に。


「でもさ、その、スーパーバスケット? で上手くなってもさ、お兄さんを陥れた人たちを負かすにしても、向こうも始めてないといけないよね? バスケ少年の全員がスーパーバスケットを始めるわけじゃないって分かってる?」


「あー、っと、ね、復讐はできたら、でいいの。できたらラッキーくらいに思ってるから。復讐が成功したところで恨みが晴れるわけじゃないし」


 そう、だから目的は別にある。


「別?」


 万里奈が首を傾げた。


「あたし自身が上手くなれたらいいの。スーパーバスケットの頂点を倒して、あたしが頂点に立つくらいにね――それがあたしの目的」


 目標はでっかく。

 ひとまず、プロ選手を倒せるくらいになれば及第点かな。


「舞夏がトッププレイヤーになって……? で、それがなんなの?」


 あたしがプロ選手になるわけじゃない。

 強くなりたいのは、勝ちたいとか、お金が欲しいとか、じゃあないんだ。

 あたしが欲しいのは、そう――


「知りたい?」


「言わなくていいよ、もうなんとなく分かったから」


 万里奈は空になったドリンクの器を持って席を立った。


 あたしも、それを追いかける。

 ……言えなかったのは、なんだか消化不良だった。




「ゲームシティ。いついくの? 休みの日は混むんじゃない?」


「混む、と思うけど……、カプセルはたくさんあるから大丈夫だと思うよ。それに、人気ゲームは他にもたくさんあるから分散すると思うの。つまり比較的、スーパーバスケットは空いてるってわけ!」


「それ不人気なんじゃ……?」


「超大作RPGや格闘ゲーム、レースゲームが人気だもん。スポーツゲームはやっぱり人は少なくなりがちだからね……家庭ではできないゲーム体験が売りなんだから、現実でできないジャンルを選ぶのはおかしいわけじゃないでしょ?」


 スーパーバスケットも、現実ではできない要素をたくさん含んではいるけど、それでもバスケの延長線上だ。想像できてしまうゲーム体験だ。

 あたしも、目的がなければ猫を愛でるゲームを遊んでたかも……。


「それは猫カフェにいけばいいのに……。全部を仮想空間でやろうとするんじゃないっての……」


 それはごもっともだったので、明日の放課後に万里奈と猫カフェにいくことにした。



 スーパーバスケットのエリアに辿り着く。

 ネオンが特徴的なカプセルルームへ。

 扉に、会員カードをかざして入室する。


 表示されてる番号は予約されていなければ自由に選んでいいので、テキトーなカプセルを選んで入る。中は狭すぎず、広すぎずで……、本当にカプセルホテルみたいだった。

 いや泊まったことないけど。

 万里奈とはゲーム世界、すぐ目の前で待ち合わせることにして――ログインする。


 カプセルの中にいればヘルメットなどを被ることなくゲーム世界へダイブすることができる――そして、あたしはゲーム世界……スーパーバスケットの世界へ。


 意識が、まるでタイムスリップしているみたいに、移動する――――





 目を開けると、そこはもうゲーム世界だった。


 手元の端末で自分の姿を確認する……、肩までの青髪、やや跳ねた毛先まで再現されていた。

 色々いじれるけど、アバターは変更せずそのまま使用する。

 後で変えられるし、今は万里奈と合流をしよう。


 町のランドマーク(駅前広場)で合流した万里奈は、控えめだった現実世界でのギャル感から、さらに増していた。キャバ嬢みたい。

 現実世界でできないことをするのがここなら、理に適ってるのかな?


「舞夏はそのままなんだ?」


「うん。特にどこもいじらずに、」

「胸」


「!?」


「ねえ、なんで少しだけ盛ってるの? 意味ある?」


 痛いところを突かれ――って、やめて先っぽをつつかないで!!

 慌てて胸を隠して身を引く。……こんなとこまで感覚があるの!? なくていいのに……。

 リアルすぎるのも困ったものだった。


「ねえ、怒った猫みたいに拗ねないでよ。ほら、いこ」


「きゃ、キャバ嬢に連れてかれるー……」


「誰がキャバ嬢よ! そんな下品じゃないし!!」


 それはキャバ嬢に失礼なんじゃない?





 … つづく

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