第2話 ずれたまま


 数日後。


 彼は、いつも通り店にいた。


 挨拶は交わした。

 業務連絡も問題ない。

 ただ、それだけだった。


 以前なら、レジが空いた時間に

 どうでもいい話をしていたはずだ。

 新刊のこと、休みのこと。


 今はない。


 俺はそれを、

 不便だと考えることはなかった。

 

「これ、補充しておきます」


 彼は、そう言って、俺の返事を待たずに動く。


「頼む」


 短く返すと、会話は終わった。


 閉店作業も、各自で進める。


 手伝おうとして、やめた。

 距離を保つと決めたのは俺だ。


 今さら曖昧にする理由はない。


 作業が終わり、鍵をかける。

 彼は先に外へ出た。


「お疲れ」


 背中に声をかけると、

 振り返らずに手だけが上がった。


 それだけだった。


 その日以降、

 彼から誘われることはなかった。


 仕事に支障は出ていない。


 だから俺は、

 この状態をそのままにした。


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