第2話 ワールド一位を取った翌日、村が包囲された

 興奮しすぎて、ほとんど寝なかった。

 「育成は初日が命」とかいうゲーム脳が暴走し、気づけば夜明けまで村の作業を続けていた。


 ──で、翌朝。


 目を覚ますと、村の空気が昨日とまったく違っていた。

 枯れていた畑は薄く緑を帯び、村人たちは驚いたようにざわついている。


「領主さま……本当に水が……!」


「昨日まで絶望しかなかったのに……」


 その声に胸がじんわり熱くなる。


(……七年間、ゲームで積み上げてきた最適化。

 異世界でも通じるって、最高だな)


 空中に手を払った瞬間、空気が紙のように裂けた。


《領地ステータス》


 淡い文字が浮かび上がり、視界に固定される。


《黒霧村》

・総合レベル:12

・畑レベル:12

・水源安定度:+180%

・幸福度:84(希望の兆し)


(よし。ここからは一気に回せる)


 手際も気分も、まるで初期村の最速攻略だ。

 小屋を修繕し、倒れた柵を起こし、村人の仕事動線まで最適化する。


《作業効率 +12%》

《生産力 +30%》

《総合レベル:14》


(……こんなに早く上がるの、ゲームでも無理だぞ?)


 指先が震えるほどの爽快感。

 育成が触れる。数字が体感できる。

 七年間の積み上げが全身で爆発していた。


「領主さま、昨日と別人みたいだ……」

「本当に……救われているんです」


 村人の表情が明るくなる。

 そのたび、胸の奥が温かくなった。


(……俺、ここで暮らしていけるかも。

 育成だけして、平和に──)


***


 ──それからの一週間は、ほとんど記憶がない。


 朝に目を開けた瞬間から、夜に倒れ込むまで、俺はひたすら土を触り、村を組み替え、水脈・日照・動線・畑の区画……

 全てを最適化し続けた。


 仕事動線は三度作り替え、倉庫は五回建て直し、畑は十二区画へ拡張。


《黒霧村:総合レベル21》

《ワールドランキング:1位に浮上しました》

《ギルド機能/ワールドチャット解禁》


(……お、ワールド一位。ここでも取れたのはうれしいな)


 ギルドは……入っておけばいいか。

 特に使う予定はないが生産バフが付く。

 ワールドチャット?

 一応覗いたけど、雑談と煽りと自慢話で埋まってて三秒で閉じた。


(時間の無駄だな)


 育成の手を止めたくない。


 数字は嘘をつかない。

 黒霧村は、昨日までの荒れ地とはまるで別物になっていた。


***


 夕方。

 ステータスに、見慣れない項目が追加されていた。


《領地防衛シールド(7日間)が解除されました》

《※今後、他ギルドからの侵攻が可能になります》


(領地防衛シールド?)

(侵攻??)

(そんなの『グロウ・ワールド』になかったぞ?)


 嫌な汗が背中を伝う。


(……領地育成ゲームに、ガチの対人?

 いやいや……対戦要素っていっても、軽いミニゲームみたいな——)


 無理に自分を安心させた、その直後。

 村の外の空が、じわりと赤黒く染まり始めた。


 昨日の夕焼けじゃない。

 もっと濃く、血の色に近い、不吉な赤。


(……やな色だ)


 そして、視界に浮かび上がる。


《警告:ギルド紅牙戦線 領主6名》

《軍事力:騎馬兵30騎 黒霧村を包囲中》

《逃走:不可能》

《競争ステージ:領主狩り 開始まで 00:09:58……》


(……領主……狩り?

 狩る側が30騎ってことは──

 狩られる側は……俺?)


 背筋が冷たい指で撫でられたように震えた。


 このときの俺は、まだ知らなかった。

 この世界の戦闘が、ただの対戦ではなく——

 ガチの戦争だったことを。


***


楽しんで頂ければ★など頂ければうれしいです。

https://kakuyomu.jp/works/822139842062326063


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世界一の農民、領地レベル=戦闘力の世界で無双する 悠・A・ロッサ @GN契約作家 @hikaru_meds

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