第2話 卒業式出席の攻防

 「はい。ありがとうございます。正規の書式で期日もわたくしの名前も合っております。校長先生のサインも間違いございません」


 「だがこれは認めてくれ。首席である君の挨拶は次席の生徒にやってもらう。いいな」


 (命令形?くだらない理由でしょうが、確認は必要でしょうね。はぁぁ)

 「理由を」


 「妖精の力を持たぬ君が首席だ。だが、その力を誰も証明できない。過去に事例も無い。

 その君を首席として挨拶させる事は十四カ国の教会も認め辛い。

 解かっては貰えないだろうか」


 「それは十四カ国の妖精教会の各大司祭様からわたくし個人に対してそのような要請があったから。と、認識して良いのでしょうか?」


 「そうだ」


 「おかしいですねぇ。ミウラール王国の代表大使であるわたくしに対し何の連絡も通達も問い合わせもございませんでしたよ。

 だってそうですよねぇ。

 今、校長先生は十四か国の。と、仰いました。

 ご存じの通り妖精教会は各国の教育機関に妖精の件に関しては教育上介入します。

 しかし、一個人の卒業生迄の事には介入しません。

 しかも他国の事ですから、内政干渉にも発展しますよ。

 ならば十三か国の担当大使がミウラール王国のたった一人の大使であるわたくしに伺ってくるはずですが。

 ああ。申し訳ございません。

 十三か国の大司祭様と校長先生は懇意の仲であらせられましたか。

 各大司教様に確認後、訂正して謝罪いたします


 「そうではない」


 (どっちなんですか?)

 「それとここは宗教の自由を保障しています。

 去年までは例え無信者でも妖精の力を宿していなくても難無く卒業されていますよ。

 過去に事例が無い?

 三回前の卒業式の首席挨拶は妖精の力を宿していない先輩でしたが?

 妖精の力を宿していなくて魔法成績は同率の最下位。

 これは主席の選定範囲には組み込まれていません。

 しかし、それ以外の座学も剣術も一般教養も貴族教養も含めた全てが同率の最下位だったと公開されていました。

 全国民と言っていいほどが知る周知の事実。

 ですが何故か総合で首席。

 不思議ですねぇ校長先生の甥っ子様でした。

 他の貴族から大反発があったと聞いております。ですが第二妃のイジルバーバラお妃様が宥めてそのまま卒業式をなさったとか。

 その時教会から圧力は無かったのですか?

 それとも校長先生が国王陛下の許可無くご勝手に今年から宗教学校になさった?」


 「・・・」


 「わたくしはこのミウラール王国の大司祭とは顔見知り程度です。

 ですがナメナット女王国のエルフの大司祭トーポサイ・ラミー様とはお食事もする仲です。

 他の十二カ国の大司教様ともお茶会を致しますよ。

 今から全ての大司教様と念話で伺ってみましょうか?全員にこの場から念話が通じますよ」


 「待ってくれ。そうでは無くてだな


 「はい。解りました。首席挨拶をしなければならない理由は有りません。

 ご辞退申し上げます。

 ただ、わたくしを式を辞退するほどではないが体調不良としなければなりませんよ」


 「判った。そのように通達する」


 「座っているだけですよ。一言も発してはなりませんよ」


 (はぁぁぁここまで譲ったのにまだ言いますか。

 卒業証書授与の本人名呼び出しに対し返事が無ければ本人と確認が取れず、卒業証書の無効を宣言するお積りですよね。

 まぁ今知れて得しましたが)

 「教頭先生。卒業証書授与の名前は呼ばれないのでしょうか?

 もしくは第三王子のわたくしの名前が間違えられ続けるのでしょうか?陛下から授かった第三王子の名前を呼べないとか?

 今、教頭先生はわたくしに対し明確に言葉を発するなと仰った。それはそれで規定に抵触致します。わたくしは全列席者の目の前で公表してもいいですよ。

 そうなれば教頭先生の。校長先生の。学校側の落ち度として」


 「さすがに教頭先生それは無理が有るな。事情を知らない他の貴族が騒めくだろう」


 (何ですか事情って。ご自身で言っていて訳が分からなくなっていますね。全く)


 「そうですわね。今のは失言。撤回します。必要最小限に留めなさい」


 (言質と証明書を取っておかないとマズそうですね)

 「謝罪と発言の許可書を下さい」


 「必要なのですかっ」


 (やっぱりかぁ)

 「生徒に対し不必要な命令であり、明確な暴言。

 わたくしはイルリット・ファム・ミウラール第三王子で王位継承権第一位ですよ。

 はっきり言いましょうか?

 イジルバーバラ第二妃より権力も実権も世界各国への発言も指示も有していますよ。

 今現在でわたくしはミウラール王国の陛下に次ぐ権力を有している事をお忘れですか?

 今回の卒業式の件でわたくしには一切の非が無いのですよ。

 お二人ともいい加減にしないと住む場所が無くなりますよ」


 「脅しですかっ」

 「いい加減にしろ」


 「判りました。今から全貴族に対して。良いですかもう一度言いますよ。全貴族に対して謁見の間への特別臨時召集を掛けます。

 全てが敵であったとしても、わたくしには頂いたこの証書が有ります


 「しまったっ」

 「卑怯ですよっ」


 「何ですかそれは?

 公安に見せれば何故この証書が必要だったかの調査が実行されます。その引き出しの中の指示書は燃やしておいた方がいいかも知れまねぇ。

 三年前の事実を明かせばイジルバーバラ王妃様も危うくなりますよ。そして国王陛下にまで責任追及が行われますよ。

 何度申してもお判りにならないようなのでもう一度言いますよ。

 わたくしはミウラール王国の王位継承権第一位の第三王子。宣誓すれば全てが事実です。

 そして妖精の力の波長をわたくしは全て読み取れます。

 何処に何を隠していても。水に溶かそうが燃やしてしまおうがそこに在った事実を証明できますよ。

 先程燃やしておいた方が。と、申しましたが無意味でしたねぇ。

 わたくしで信用できないのなら母の親友で今以ってわたくしを可愛がってくださるエルフの国。ナメナット女王国のクールシャインナ・フラーナス女王陛下に私的にお願いいたしましょうか?

 その上で叙勲間近で全ての経緯を包み隠さず証言できる証明を王立大学部のキャラカン教授にお願いいたしましょうか?

 国王陛下と全貴族の前で実証実験ができますから、大層お喜びになると思いますよ」


 「申し 訳 ございません でした。

 教頭先生。これ以上は無理だ」


 (何ですかそれは?余程卒業をさせたくないようですねぇ)


 「謝罪の明文と卒業式会場での発言の許可をしたためます」




 「取りに来ていただけますか?」


 「はい」




 「間違いありません。ありがとうございます」


 「用件は済んだ。下がっていいぞ」


 「はい。失礼いたします」


 扉の前に辿り着いてノブに手を掛けた。

 教頭先生は退学処分に出来なかったことが悔しかったのでしょう。

 私の退室を待ちきれずに。


 「何ですかあの態度は。何度も何度も権力を振りかざして。

 無理難題を押し付けても全てをそつなくこなし、どんな難問テストも全て満点。裏工作迄したのに結局は首席。

 カンニングを疑って教師で周囲を囲っても満点。

 魔法の実技でも密かに周囲を妖精術の魔法封じで囲っても全く効果無く満点。

 王国法から民法の全てが満点。

 貴族の所作からダンスも大学教授達から満点をひねり出した。

 ダンスパートナーの女性教授が大絶賛。時間延長で逆に指南を受けたいと三名も名乗り出て大変でした。

 それが三年間毎年。

 裏取引を調べたらわたくしが公安に疑われましたよ。、

 あのお方からの指示で、最下位に貶める為にどれだけのお金と妖精の力を使って来たと思っているのかしら」


 (全て知っていましたよ。教頭先生)


 「教頭先生。言い過ぎだろう」


 「次期国王は聡明なメドーダス王子殿下ですから構いませんわよ。

 死ねば全てが丸く収まるのに。

 それに校長先生も変わりありませんでしたよ」


 「そのような・・・まだ居たのか。早く去れ」


 「失礼いたします」

 (私の名前さえ言っていれば不敬罪の適用でしたね。

 まぁ十分に証拠は揃えてありますからね)




 扉の外に出ると同級生達百人ほどが盗み聞きをしていた。教師も交じっている。

 (今日は卒業式の前日で休校のはずですが?どうしてこんな早朝に揃っていらっしゃるのですかね。

 一応警戒。強化魔法で身体を防御)


 「おめぇ明日出席するのかよ」

 「何とか言ったらどうなんだぁぁ。今日は会話を許してやるぜぇぇ」

 「おらっ。今からいつもの蹴りだ。とくと味わっとけ。明後日からは誰も蹴ってちゃくれねぇぜ」

 「わぁぁはっはっは」

 「おおっとぉぉ。睨むなよ。学校内は皆平等。上下関係は先輩と後輩。生徒会と部活の部長だけだ。すまんこいつ喜んでたわ」

 「わぁぁはっはっは」

 「おらぁぁ俺達から卒業するための試練だぁ蹴りと殴りのアーチをくぐり抜けろやぁぁ」


 (ナンデネン君。何も背中を蹴らなくても。まぁ、私への殴る蹴るは彼にとっては挨拶代わりでしたからね)


 「妖精様に見放された化け物異端児がぁぁ」

 「異端児「異端児「異端児」

 「ばっけもの」「ばっけもの」「ばっけもの」


 結局、男女混合で教師からも殴る蹴るを受けたが強化魔法でダメージはさほどない。


 (鼻血と吐血は演出してサービスしておいた。満足はしたでしょう。アーチも抜けた。掃除はしておこう。

 クリーン。

 朝の八時にわざわざ殴りに来たのですか)


 「おいっ。お前達そこまでだ。追いかけるな」


 「先生、あいつまだピンピンしていますよ」


 「仕返しもしてこないなんて」


 「わたくし達女子の体に触れる事も有りませんでした」


 「本当に触れられてはいないのね?」


 「はい。どのように触れられたかの証明が出来ません。

 みんなもそうでしょ」


 「公安に聞かれたら絶対ちぐはぐになって冤罪を疑われます。家名に傷が付きます」


 「だわねぇぇ」


 「文句も言いませんでしたよ。体を寄せてもう少し先まで」


 「ここから先はさすがに止められているの。もう十分よ」


 「先生ぇぇ」


 「これだけの人数から殴られてもびくともしない。あいつが化け物と言われる所以だ」


 「「「なるほどぉぉ」」」


 (ああ、なるほど解かりました。教頭先生からお小遣いを貰って明日の卒業式に出させないように。

 お努めご苦労様でございました。

 はぁぁ。バイト行こ)

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ウォーガット領のイルリットと茶髪のリット 佐木間 雅 @miyabi-teru

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