第二章 月神は何をするのか

 世界の神話において、月神は極めて重要な役割を担う。その機能を整理してみよう。


■暦と時間の支配


 月の最も根源的な機能は、暦である。

 新月から満月、そして再び新月へ。約二十九日半の周期は、人類最古の時間単位となった。「月」という語が「一か月」を意味するのは、英語でも日本語でも同じである。

 メソポタミアの月神シン(ナンナ)は、太陽神シャマシュよりも高位に置かれていた。なぜなら、月は時間を数え、季節を知らせ、農業の基準を与える神だからである。バビロニアの暦は太陰暦であり、すべての祭事は月の満ち欠けに従って行われた。


■潮汐と水の支配


 月は海を動かす。

 潮の満ち引きが月の周期と連動することは、古代人も知っていた。インドの月神チャンドラ(ソーマ)は、水を司る神でもある。ソーマとは「圧搾された液体」を意味し、それは雨となり、露となり、生命を潤す。

 月が海を支配するなら、海の神と月の神は密接に結びつくはずである。


■死と再生


 月は死んで蘇る。

 新月の夜、月は消える。そして三日後、細い光となって戻ってくる。この周期的な死と再生は、古代人に深い印象を与えた。

 ギリシャの月女神アルテミスは、狩猟と死の女神でもある。その弓は三日月の形をしている。エジプトの月神トトは、死者の魂を裁く役割を担った。

 月の満ち欠けは、死と再生の最も身近な象徴だった。


■農業サイクル


 月は農業を支配する。

 種蒔きの時期、収穫の時期——すべては月の周期によって決められた。穀物が育ち、実り、枯れ、そして再び芽吹く。このサイクルは月の死と再生と重なる。

 だから月神は、しばしば穀物神でもある。


■世界の月神たち


 世界各地の月神を見てみよう。彼らは皆、豊かな物語を持っている。


 メソポタミア——月神シン(ナンナ)は、太陽神より上位に位置する。王権の正統性を保証し、豊穣をもたらす。ウルの守護神として、巨大なジッグラトが捧げられた。


 ギリシャ——月女神セレネ、アルテミス。アルテミスは狩猟と処女性の女神であり、三日月の弓を持つ。太陽神アポロンとは双子である。


 北欧——月神マーニは、太陽女神ソールの兄弟。彼は月を馬車に乗せて天空を駆ける。狼ハティに追われ、ラグナロクの日に飲み込まれる運命にある。


 中国——嫦娥は、不死の薬を飲んで月に逃げた女性。月には豪華な宮殿があり、彼女は永遠の若さを保ちながらそこに住む。


 インカ——月女神ママ・キヤは、太陽神インティの妻。夜と女性の守護者であり、銀の神殿で祀られた。


 イヌイット——月神イガルクは、至高の神である。すべての自然を支配し、動物の生殺与奪を握る。


 アイヌ——月の神クンネチュプは、日の神ペケレチュプと対をなす。両者は補完的な関係にある。


 これらの月神たちに共通するのは、太陽神と対をなし、独自の神話を持ち、信仰の対象として崇められていることである。

 ツクヨミはどうか。

 暦を司らない。潮を動かさない。死と再生を象徴しない。農業を支配しない。太陽神との対立も協働もない。独自の神話を持たない。

 ツクヨミは「月読」——月を読む者——という名を持ちながら、何も読まない。

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