第3話 本能で母モード

オカメさんが初めて卵を産んだ時は、なかなか初々しいものでした。

自分で産んだ卵だというのに、これは何だ?という顔で、卵をツンツン。


『……おかあしゃん これなあに?』


という顔をして私を見上げたりも。

オカメさんにとっても初めて見るものですから、不思議だったのかもしれません。


様子を見ていると、その内オカメさんは、自分のお腹の下に入れようとし始めました。

誰にも教わっていないのに、ちゃんと温めなければいけないと分かっているのです。


本能ってすごい!


しかし、何しろ初めての抱卵(親鳥が卵を孵化させる為に温めること)です。

たった一個の卵が上手くお腹の下に入らず、あっちへコロコロ、こっちへコロコロ。

オカメさんがケージの中で慌てて追い掛ける様は、ただただ可愛いばかりです。

数日後に二個目を産むと、一個はお腹の下だけれども、もう一個は別の所に転がったまま放置されていたりもしました。

つまりは下手くそ。

例え本能と言えども、最初から上手くいくわけではないのですね。


そして、温めるのもあまり根を詰めず、ケージを開ければいつも通り外に出て、自由時間を楽しんだりもしていました。

有精卵なら大変なことですが、オカメさんの卵は無精卵ですから、温めるのをやめたからといって問題はありません。


普段の様子とそれほど変わらないように思えたので、私もそれほど心配せずに、普段通りに接していました。



そんなオカメさんの様子が変化してきたのは、四個目の卵を産んだ頃からでした。

相変わらず一個、二個しかお腹の下に入れられていないのに、オカメさんは熱心に抱卵するようになってきたのです。


突然目覚めたのか、母性!?


ケージの隅っこを巣と決めたオカメさんは、その日から一日の大半をそこで座り込み、抱卵し続けるようになりました。



子を守る母とは気が立っているもの。

ケージの横を人間が通る度、鬼の形相で飛び出して来て、ステンレスのケージ柵をガツンガツンと嘴で攻撃して威嚇します。

その豹変ぶりに、少なからずショックを受ける飼い主わたし


あ、あんなにおっとり温厚だったオカメさんが、こんなに激変するなんて……!


私の家族は私と旦那さん、娘二人の四人ですが、オカメさんは誰かが近くを通る度、威嚇を繰り返すのです。

飼い主の私が通っても、二回に一回は威嚇します。

他の人は、毎回です。

こんな時にも、一応飼い主は区別している模様。

ちょっと嬉しい……。(オイ)



ところでオカメさん、卵散りましたけどいいのん?


オカメさんが威嚇する為に飛び出すと、お腹の下にあった卵は転がります。

オカメさんは、ケージ内に散った卵に気付きてハッとします。


『けっ! 今回はこれぐらいで勘弁してやらぁ!』


そんな風にこちらを睨めつつ、そそくさと隅っこに帰って行くオカメさん。

散った卵を嘴でコロコロ掻き集め、また腰を落とします。

……また一個向こうに転がってますけれど、気にはならないようです。


新米母っぽくて、なんだか可愛い……。

いえ、雛は生まれていないので、正確に言えば母ではないのですがね。



とにかく、ここはそっとしておかなければなりません。

ケージに毛布を掛けてあまり見えないようにし、抱卵期間が終わるまで様子を見ることにしました。

そして、改めて私も、インコの産卵に関する曖昧な部分を勉強することにしました。

飼い主として知識を持っておくことは必要です。

……もっと早くするべきでしたが。

反省。



それにしても、教えられなくても卵を産み、温め、守ろうとするなんて。

生き物とは、本能とはすごいものだと、改めて感心したものでした。




(まだつづきます)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オカメインコ卵騒動 幸まる @karamitu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画