第二依頼 調査!地下世界の噂 3話
先に陸達が得た情報、カルウのことを話した。灯達はうんうんと頷きながら聞いている。そして、話が終わると同時に灯が口を開いた。
「成程。それならボク達が得た情報も無駄ではなかったようだ。ねえ、フェリ」
「そうですね。実は僕達、各々で情報収集をていたのです。その中でカルウに関する話もありました」
フェリは立ち上がると、1枚の写真を差し出してきた。暗くてはっきりと見えないが、灰色の狼が映っていることは何とか分かる。2足で立っており、まるで物語に出てくる獣人のようだ。また、その狼を囲むように虎の獣人や形容し難い見た目の異形達が周りにいる。
「これは記者をしている方から頂いた写真です。どうやら最近、カルウを中心として一部の人間敵対派が不穏な動きをしているとのこと。僕は地下世界に詳しくありませんが、彼の主人フームヤも人間嫌いだと聞きました。なので主人から命令されて動いているのでは、と思ったのですが……」
「それは違うようだ。ボクは4階層のとある知り合いから話を聞いてね。どういうわけかフームヤは考えを改め、星望声に与するつもりらしい」
最後の言葉の後、灯は思い出したように「あ、星望声について陸に説明していなかったね」と言うが、陸は説明を受けたことを伝え、本題に戻る。
事件の主犯である可能性が高いカルウ。急に考え方を変えたフームヤ。この主従の間に何があったかは分からない。けれど、お互いの行動が矛盾していることだけは確かだ。
「そう……話を全て信じるとしたら、フームヤ様がアタシ達の味方になることにカルウが納得していない。だから暴走している。フームヤ様はそれに手を焼いている、というのが一番ありそうね。もしくは……いや、あり得ないわね。この話、持ち帰って考えてみる。依頼は終わりでいいわよ」
「え、もういいのかよ?」
「ええ。元から解決してほしいわけではなかったもの。後はこっちで何とかするわ」
水音の意志は固い。陸達にとってもこれは仕事。であれば、依頼者である彼女の望み通りにするべきだろう。
ひとまず水音を含めた全員で事務所に戻ることになり、ベンチに座っていた灯も立ち上がった。そして、移動をしようとしたその瞬間──
「先生!」
マミが勢いよく灯を突き飛ばした。灯は何も理解できないまま「え?」と声を上げると、そのまま近くの家の壁にぶつかる。
「ぐっ……」
「灯さーん!!」
仲間の手によって負傷者が出てしまった。しかし、今はそちらに気を取られている暇はない。噴水から何かが出て来たのだ。
それは大きなイカのような化物。本来眼がある位置は空洞となっており、代わりに耳の部分に大小様々な眼が付いている。
上がる悲鳴。逃げ出す者達。イカの化物はそれらを無視し、全ての眼で陸達を見た。そして飛びかかるタイミング計るように、ゆらゆらと触腕を揺らす。
「凄い敵意……皆、気を付けてね」
「お、おう了解。でも灯さんが……」
「平気よ。アイツ頑丈だから」
何と適当な扱いだ。いや、信頼しているからこそなのかもしれない。ここはその言葉を信じ、目の前の敵に集中するべきだろう。そう思った時だった。
「お前人間だろ?匂いで分かるぜ〜」
辺りに男性の声が響く。同時に、陸の足元に円形の穴が空いた。その中は赤黒く恐ろしい。陸は沼に沈むように中に落ちて行く。
マミとフェリは化物に集中していた為、咄嗟に反応できない。もう顔と手しか出ていない陸を助けられる者なんて……。
「陸!」
諦めかけた陸の手を握ったのは水音である。偶然近くにいたおかげで唯一動くことができたのだ。だが、それでも助けるには遅い。陸は水音を巻き込み、一緒に落ちていってしまった。
♢♢♢
「どこだ、ここ……?」
そこは見渡す限りの荒野。空は先程の穴同様に赤黒く、辺り一体はどんよりと暗い。3階層とは違った意味で異世界のような場所だ。
「ここは4階層よ。地神様とアタシ達眷属は階層間を移動する魔法が使えるの。まあ、下の階層へ行こうとする程に沢山の魔力を消費するから、普段はあまり使わないけれど」
水音はそう答えながら左手の親指を撫でる。そして、呟くように呪文を唱えて手を離した。そこには小さな指輪が嵌められていた。白い宝石がキラキラと輝いている。
水音は宝石に軽く口づけた。すると、全身が光に包まれる。陸は眩しさに一瞬目を瞑り、再度水音を見て驚いた。服装が変わっていたのだ。白を基調とした制服姿……おそらく治安維持部の制服だろう。
「陸、アンタ人間なのね」
「!」
どうやらあの男性の声が水音にも聞こえていたらしい。しかし、星檻のことがバレたわけてばない。これくらいなら問題ないだろう。陸は水音の言葉に頷いて返す。
「そう……人間にここは危険ね。アタシが守るから早く出ましょう」
言い終わると同時に歩き出す水音。陸は置いて行かれないように急ぎ、水音の隣へと移動した。
歩きながらチラリと水音に視線を向ける。深入りされるのは困るが、何も聞かれないのも怖い。しかし、自分から話を振るのも……。
そんな陸の様子に気付いたのか、水音から「何かしら?」と声をかけられる。
「あ〜いや、驚かないんだなって思って」
「驚いているわよ。でも、人間を守ることがアタシの仕事だもの。治安維持部第一課隊長として冷静に行動しないと」
「かっけぇ……水音って頼りになるよな」
褒められて照れているのか、水音はわざとらしく咳払いをする。
「と、当然よ!アタシは身勝手な灯とは違うもの!この仕事に誇りを持っていたら当然のことだわ」
「身勝手?……朝から思ってたけど、灯さんと水音って仲悪いよな。何かあったのか?」
「……聞いていないのね」
一瞬、水音は悲しそうな顔をした。だが、直ぐに切り替えて溜息をつく。呆れたような、怒っているような調子で陸の質問に答えてくれる。
「灯はアタシの前任よ」
「へ〜灯さんって治安維持部の隊長だったんだ〜……ええ!?灯さんが!?」
「ええ。まあ、気付く者は少ないでしょうけどね。あの頃のアイツは顔を隠していたし、今とは全然違うもの」
水音は昔を思い出すように遠い目をする。
「アタシは副隊長としてアイツの側にいたの。昔のアイツは強くて、冷徹で、どんな仕事も完璧にこなすアタシの憧れだったわ。でも……灯は急に魔法が使えなくなった。いや、魔力消費の少ない魔法しか使えなくなった、が正しいわね」
予想していなかった言葉に陸は目を見開く。そういえば灯と最初に会った日に、『ボクも力ない役立たず』と彼は言っていた。それは大半の魔法が使えなくなったからだったのか。
これ以上深入りしていいのか悩みながらも、口からは勝手に「何で」という言葉が漏れていた。
「さあね。質問はしたわよ?アイツったら、さっさっと仕事を辞めちゃうもんだから、急いで会いに行ってね。でも、その時に何て言ったと思う?『他にやりたいことができてね、悪いけれどそちらに割ける時間はないよ。キミ達だって弱いボクに用はないだろう?』って」
灯がそんな突き放した言い方を?陸にとっての灯は胡散臭いが優しく、駄目な部分もあるが信頼できる相手だ。そんな風に言うなんて想像できない。
地面を見つめて立ち止まる陸。不思議がりながら水音も止まってくれた。
「全然知らなかった……オレに隠したかったのかな」
「いいえ、もう興味がないだけよ。自分の過去にも、こっちの仕事にも。もし気になるのなら陸から聞いてみなさいな」
……確かにそうだ。機会をみて聞いてみよう。そう決めて、陸は再度歩き出そうとした……が、その足が地面を踏むことはなかった。後ろに勢いよく引っ張られたのだ。倒れて尻餅をつく陸。痛む箇所を押さえながら立ち上がると、また辺りの景色が変わっていた。
その場所は荒野ではなく、背の低い草が沢山生えている。空は曇っており、今にでも雨が降りそうだ。また、水音の姿はない。陸だけがこの場所に連れて来られたようだ。
何が起きたか理解できないまま周囲を見渡し、背後の存在に気付く。
「おっ、気付いたか?可哀想にな〜人間」
「お前どこかで……あ、カルウと一緒にいた奴!」
話しかけてきた化物に陸は見覚えがあった。それはフェリが見せてくれた写真の中、カルウの近くにいた虎の獣人だ。
「そこまでバレてんのか……まあいい。カルウのことを知っているなら分かるだろ?ここはアイツの結界内。逃げることも助けを呼ぶこともできなねぇよ」
いや、全く知らなかった。ここは結界?内なのか。
しかし、マミ達とだけでなく、水音とまで分断されるとは……。いや、水音も心配だが、ひとまずは自分の心配をするべきだ。陸は真っ直ぐ相手を見つめたまま話を続ける。
「何でこんなことをするんだよ、お前ら」
「うざいから嫌いだから邪魔だから。例えばよぉ、『蟻が地上で暮らすから人間達は地下で生活しろ』って言われたら納得できるか?地上だろうが地下だろうが常に蟻に気を遣って、人間の中には喜んで蟻の姿になる奴もいる。気持ち悪いだろ?改革が必要なんだよ、この世界は」
陸のことを舐めているからか、直ぐに攻撃せず会話をしてくれるらしい。このまま話し合いで解決できればいいのだが……まあ、無理だろう。諦めず言葉を考えている陸の行動はきっと無駄になる。
「でも、人間を捕まえて痛めつけるのは違うだろ。そんなのただの憂さ晴らしじゃん」
「あ〜そうかもな。でも、人間は意味もなく蟻を潰すって聞いたぜ?それに比べりゃ“嫌い”って理由を持って行動している俺達の方が正しくね?」
「それは……」
その先は言えなかった。「一部の人間だけ」と言っても、向こうだって同じだからだ。暴走しているのは地下世界の一部だけ、そして殺される人間達は運の悪かった蟻に過ぎない。
虎の獣人は欠伸をしながら頭を掻くと、陸に鋭い視線を送る。
「まあ、気にすんな。暇だから会話しただけで分かり合うつもりはねぇから。お前を死なない程度に痛めつけろって命令だ。ダルいが手加減はしてやる。……頼むから死ぬなよ?」
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