第二依頼 調査!地下世界の噂 2話

 依頼達成の為に陸達がとった方法、それは噂について片っ端から聞き回るというものだった。

 マミと水音は地下世界で有名なのだろう、話しかけられた者は快く答えてくれる。


 そうして情報を集めつつ、ある屋台の前を通った時のことだ。何かが目の前に飛び出して来た。

 見ると人間の片腕だった。体はなく、腕だけがフヨフヨと浮いている。


 無視していいものか陸が悩んでいると、屋台の方から女性の声が聞こえてきた。


「あっれれ〜?水音だマミだ知らナい子だ!」


 陸が声の方を向くと、至近距離に女性の顔があった。陸は驚き、「うわっ!」と叫びながら跳ね上がる。そんな陸に対し、女性はクスクスと笑う。そして、後ろへと退がって行った。


 女性の全身を見た陸は更に驚く。女性は人間の頭と体こそしているが、腕と足は胴体から離れていた。だが、離れていても自分の意思で動かせるようで、先程浮いていた腕を引き寄せている。


「あら、ラプクじゃない。何をしているの?

「お手伝イ!オクトの!」

「オクトさん……ってことは」

「は〜い、私のお店ですよ〜」


 予想通り、そこは初日に来た屋台だった。オクトがニコニコと笑いながら手を振ってくれる。


「皆さんいらっしゃ〜い。来てくれて嬉しいです〜」

「オクトさんお久しぶりです」


 陸が挨拶をすると、オクトは更に嬉しそうに笑った。初日は直ぐに別れた為、陸としてもまた会えて嬉しい。

 せっかくなので色々話そうと陸は屋台に近付く。そして気付いた。屋台の中にはオクト以外にも誰かいるようだ。


 それは子供のように小さく、明らかに人間ではない見た目をしていた。頭は大きいキャンディで、体は子供の落書きのようなデフォルメされた姿だ。手足は細く、木の枝くらいしかない。そして、そんな手で大きいロリポップを持っている。

 よく見ると、手元のロリポップには目と口が付いていた。ニコニコと可愛らし笑みを浮かべている。


(コイツ可愛いな)


「おい!何を見てやがる!この野郎!ぶっ飛ばすぞ!」

「口悪っ」


 男とも女ともつかない声でキャンディ頭は怒鳴る。しかも、その声は本体ではなく、手に持っているロリポップから出ていた。だいぶ見た目との差がある生物だ。


「キャディンよくナい!お客様ニ失礼!」

「うるせぇ!何も買わねぇやつは客じゃねぇ!」

「でも私のお友達ですよ〜」

「関係ねぇよ!俺様にとっては名前も知らねぇどうでもいい奴だ!」


 どうやらキャディンは気性が荒いようだ。どう接するのが正解だろう。陸が悩んでいると、ラプクと呼ばれた女性が陸の手を掴んだ。そしてまた顔を近付ける。


「ナら、名前を知ってイタらいいよね!ねえ、知らナい子!ラプクはラプク!この怒っていルのがキャディン!知らナい子の名前は?」

「えっと、オレは八崎陸です」

「オオ!その名乗り、地上デ活動してイルとみた!ヨロシク」


 ラプクはそう言い、陸の手をブンブンと上下に振った。勢いの強さに若干痛みを感じる。だが、それ以上にラプクが言った“地上で活動”という部分に疑問を抱く。


(地上で活動?……そういえば灯さん達が名乗る時も似たようなことを言ってたな。オクトさん達には苗字がないし……もしかして地下世界の連中には名前しかないのか?)


 しかし、質問をする間もなくラプクは屋台へ行ってしまう。そして、嫌がるキャディンを持ち上げ、陸の方へ戻って来た。

 笑いながら、暴れるキャディンをずいっと陸に渡して来る。手に持っているロリポップがぶつかりそうなのでやめてほしい。


「おい!離せやめろ!」

「不仲よくナい。陸とヨロシクしナさい」

「ぐぐぅ……おい、お前!手を出せ!」

「え、お、おう?」


 陸が手を差し出すと、キャディンはグッと握り返す。そして直ぐに手を離した。後ろを振り返り、ラプクに向かって喚く。


「ほら!もういいだろ!?」

「握手トは素敵じゃナいカ!仲良し仲良し」


 ラプクは嬉しそうにうんうんと頷くと、パッと手を離す。そのせいで、キャディンは地面に叩き付けられてしまった。


「ぎゃっ!お前〜!」


 倒れたまま騒ぐキャディン。心配しながらもキャディンを指で突くマミ。もう興味を失っているラプク。そんな騒がしい光景に水音は溜息をつき、オクトの方を向いた。


「ねえ、オクト。この辺りで何か噂を聞いてない?人間が誘拐されている、みたいなやつ」

「あ〜聞いたことあります〜。というか私、その現場を見たんですよ〜」

「え!?」


 予想外の言葉に、陸とマミもオクトの近くに集まる。オクトは周りをキョロキョロと見渡し、聞き耳を立てている者がいないことを確認すると、小声で話し始めた。


         ……………


 何日か前の夜。私はお店に忘れ物をして、取りに行っていました〜。本当に遅い時間だったので、早く帰ろうとしたら、遠くから声が聞こえてきたのです〜。私、怖くて隠れました。すると、その声が段々と近付いて来たのですよ〜!


 それは子供の声でした。『ここはどこ?帰りたい』って、その子はずっとずっと泣いています〜。私はまだ怖かったけど、心配で少し覗いてみたら、ちょうど通り過ぎた後のようでした〜。でも、後ろ姿だけが見えたのです〜!

 暗い道の中、人間の姿をした子供の腕を、誰かが引っ張って……いえ、引き摺って歩いているようでした〜。そして、その“誰か”は〜灰色の毛に、毛先だけが黒い狼さん……地神フームヤ様の眷属、人間嫌いのカルウです〜。


         ……………


「……この後にその噂話を聞いて、もしかしてって思ったのですよ〜」

「そう……」


 暫くの間無言が続く。陸は子供を心配すると同時に、相手が地神ではなく眷属でよかったと安心した。しかし、マミと水音は複雑そうな表情をしている。

 マミは悩みながら、「ん〜」と言葉にならない声を上げる。そんなに厄介な相手なのだろうか?

 水音がポツリと呟く。


「そう、カルウなのね……」

「ヤバい奴なのか?お前達と同じ眷属じゃん」

「そうなんだけど……戦うとなると面倒くさい相手、かなぁ」


 マミの弱気な様子に、陸も少し不安になる。だが、水音は違う。頬を叩き気合いを入れると、最初と同じ自信に満ちた顔をした。オクトに礼を言って歩き始める。陸達は慌ててその後を追った。


「ふふ、いい情報が得られたわね。カルウ、相手に取って不足なしだわ。……マミ、陸。この調子で情報を集めるわよ!」


         ♢♢♢


 情報収集を再開してから何十分か経過したが、未だにオクトの目撃情報を超える話は聞けていない。なので、一旦灯達と合流することになった。しかし……


「水音ちゃん昨日はありがとうね!」

「気にしないで。仕事のついでだから」

「水姉ぇこれあげる」

「あら、ありがとう」


 水音が囲まれており、進めなくなっていた。笑顔で話しかけて来る者に、水音は丁寧に対応している。

 マミは灯と連絡すると言うので、陸だけが少し離れた位置で1人待っていた。

 少ししてマミが戻って来る。


「お待たせ〜!先生に話したら『ゆっくりおいで』って」

「了解。それにしても人気者なんだな、アイツ」

「水音は正義感が強いし、すっごくいい子だからね。それに、私達は眷属の中でも特別なんだ」

「ヘ〜特別って?」


 自分で言ったものの説明が難しいのか、マミは考えながら口を開く。


「主人……えっと、眷属は自分を創ってくださった地神様を主人って呼ぶんだけど、私や水音の主人は『星望声』っていう組織の中心なの」

「せ、声望声?」

「この星を守るための組織よ」


 その疑問に答えたのは水音だった。思っていたよりも早く抜け出せたようだ。水音は不思議そうに陸を見る。


「何?アンタ知らないの?」


 まずい、怪しまれている。陸は聞いたことがなくとも、この世界では常識なのかもしれない。

 言葉に困っている陸の代わりに、マミが即座に答える。


「りっくんは地上生まれだから、まだ地下世界のことは分かっていないんだ〜!」

「ああ、成程ね。そういえばフェリも最初こうだったわ。……いや、大事なことでしょ!ちゃんと教えてあげないさいよ!困っているじゃない!」

「少しずつ教えていくつもりだったんです〜」


 プイッとそっぽを向くマミ。水音に対しては、いつも笑っているマミの表情がよく崩れる。同じ種族同士、他とは違う話しやすさがあるのだろう。

 水音は呆れたように溜息をつくと、陸に向き直った。


「星望声とは、6柱の地神様が中心となった組織よ。あの真ん中にある大きい建物が本拠地なの」

「おお!あれか!」


 それは、初めてこの世界に来た時から見えていた近代的な建物。まるで高層ビルのようなその建物は、やはり周りの街並みから浮いていた。


「アタシ達は、この星を守ることを目的としながらも、地上・地下の生物が安全に暮らせるように活動しているわ。部署も色々あって、アタシが所属する『治安維持部』の他に、『天神対策部』や『魔術書回収部』などもあるわね」

「な、何か……凄そう?」

「“凄そう”ではなく凄いの。むう……偉大さが全然伝わっていないわ。アタシの説明が悪いせいね……」


 何故か水音が自分を責め始めた為、代わりにマミが説明の補足をしてくれる。


「実質、この星を治めているのが星望声なんだよ〜。星望声の考えがこの星の考え。6柱の地神様次第で、人間を滅ぼすことだってできるの」

「やっば……凄い大事な組織じゃん」

「そう!そうなのよ陸!ナイス説明ね、マミ!」


 水音は喜んでいるが、陸にとっては尊敬より怯えの方が強い。しかし、そんな陸の感情には一切気付かず、水音はマミの頭をわしゃわしゃと撫でている。

 抵抗せずに撫でられるマミ。乱れた髪のまま、目を輝かせて説明を続ける。


「そ・し・て!さっきも言った通り、その6柱の内の1柱こそが、私を創ってくださった地神様!私の主人!ウィクシー様なの!」

「おおっ、すげぇ〜!」

「……それをいうならアタシの主人、リィローア様だってそうなんだけど」


 その声は届いていないのか、マミは自身の主人がどれだけ素晴らしいかを熱く語っている。そんな姿に水音は呆れ、陸に対して「聞き流していいわよ」と冷たい助言をするのだった。


 それから数分後。マミはまだ満足していないようだったが、水音が無理矢理黙らせて移動することになった。待ち合わせ場所は最初の噴水前だ。

 噴水前に到着して直ぐに、ベンチに座っている灯達に気付く。オクトの話以外に有力な情報を得られていない今、灯達が得た情報で核心に迫ることができたらいいのだが……。陸はそんなことを願いながら「お待たせ」と声をかけた。

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