第二依頼 調査!地下世界の噂 1話
「オレ、地下世界に行きたい」
本日も探偵事務所は営業中。だが、残念ながら依頼者は来ない。その為、陸達は雑談をして暇を紛らわせていた。
そんな中、思い出したように陸が発した言葉が冒頭の台詞である。
「急だね〜。どうしたの?」
「何か用事でも?」
陸の向かいに座っているマミとフェリが問いかける。ちなみに、灯は会話に混ざらず離れた席に座っている。パソコンで何か見ているようだ。
「いや、用事はない。けどさ、前は混乱してたし、直ぐに出たじゃん?もっとちゃんと見たいな〜って思ったんだ」
「そうなの?じゃあ、今度皆で行こうよ!」
「いいですね。3階層には色々なお店が出ているので、きっと陸君の気に入る物もありますよ」
マミとフェリは楽しそうにオススメの場所を話している。すると、今まで黙っていた灯も話に入ってきた。……けれど、それは肯定的な意見ではなく、釘を刺すために。
「陸。地下世界に行くのはいいけれど、ボクがあの時キミを早く連れ出したかった理由……忘れていないね?」
「うっ……人間ってバレたらヤバいから」
「そうだね。それに、今のキミの状況は?」
「……星檻のことを隠さないと駄目です」
段々と声が小さくなっていく陸。この状況で迂闊に動くべきではないが、気持ちは誤魔化せない。陸は目に見えて落ち込んでしまった。
そんな姿に罪悪感を覚えたのだろう、灯は「うっ」っと短く呻き声を上げ、悩む素振りをする。
「先生〜、私達も付いていくから大丈夫じゃないですか?」
「3階層までなら危険も少ないですよ?」
マミ達からもこう言われ、灯は諦めたように溜息をつく。
「……まあ、これから先、何があるか分からないからね。地下世界に慣れておいた方が安心か」
その言葉に陸はパッと顔を上げる。先程の表情が嘘のように嬉しそうだ。立ち上がり、ガッツポーズをする。
「やった〜!ありがとう灯さん!」
「ただし!必ずボク達の誰かと一緒にいること!いいね?」
「おう!もちろん!」
力強く返事をしつつも、もう頭の中は遊びに行くことでいっぱいだ。改めてオススメの場所を教えてもらおうと、マミ達を見たその時──
コンコン
事務所の扉をノックをする音が聞こえてきた。相手は無言だ。こちらの返事を待っているのだろう。
陸は玄関まで移動し、「はーい」と返事をして扉を開けた。
「失礼します」
そこには少女が立っていた。お辞儀をしているので顔は分からないが、歳は陸と同じくらいだろう。紫の髪に、白のインナーカラー。そして。その髪を左右で結びツインテールにしている。
少女が顔を上げた。右の目が紺色、左の目は青藤の色をしており、つり目で強気な印象を受ける。大人びた服装をしていることもあり、一見して近寄り難い雰囲気のある子だ。
陸と目が合った瞬間、少女は驚いた表情になる。
「っ!ア、アンタは……」
そこから先に続く言葉はなく、黙って陸を見ている。どうしたのだろう?
陸が何か声をかけようとしていると、マミがやって来た。
「あれ、珍しい〜!どうしたの?遊びに来た?」
「……いいえ。用事があるから来たのよ、マミ」
どうやらマミとは知り合いらしい。マミは「そっか〜」と軽く返事をすると、少女の手を引いて事務所内へ引き入れた。
「マミの知り合い?」
「あ、りっくんは初めましてだよね?この子は私と同じ種族でね、友達!」
「同じ種族……なら眷属ってこと?」
「そう!」
「紹介が雑過ぎるでしょ!せめて名前くらい言いなさい、おバカ!……はあ、自己紹介くらい自分でするわ」
少女は胸に手を置き、真っ直ぐ陸を見る。自信に満ち溢れた目だ。
「アタシは水音よ。地上での活動名は氷裏水音。よろしくお願いするわ」
水音はそう言うと握手を求めてきた。陸はその手を握り返し、自分も名乗る。
「オレは八崎陸だ。よろしくな」
お互いの自己紹介が終わったタイミングで灯がこちらを見た。そして、わざとらしく溜息をつき、煽るように水音に話しかける。
「で?こ〜んな小さい探偵事務所に、水音様のような偉〜いお方が何のご用かな?」
「相変わらず癇に障る言い方をするわね、アンタ。喧嘩を売っているのかしら?」
「おや酷い。あの治安維持部第一課隊長様にそんなことしないよ。本当に怖いなぁキミは……野蛮な考え方はやめてもらえるかな?」
「殴ってもいいわよね?これ、殴っても許されるわよね?」
水音は拳を振り上げ灯の方へ向かって行く。それをマミが「まあまあ、落ち着いて」と抱き付き、押さえて何とか宥める。
陸はその光景を見ながら、灯が言った『治安維持部』が気になっていた。何の組織だろうと考えていると、丁度よくフェリが隣に来る。喧嘩に巻き込まれないように避難しに来たようだ。
「フェリさん、さっき灯さんが言っていた治安維持部って何?」
「ああ、前に言った警察に近い存在のことですよ」
「警察……え、じゃあ」
陸は一気に血の気が引く。頭に浮かぶのは事務所にある魔術書。もし、もし水音に魔術書のことがバレたら……
(オレ達全員捕まる?……ヤバい!)
何事もなく、穏便に帰ってもらわなければ。改めて水音を見ると、今は灯に背を向け、深呼吸をしているところだった。
「ふう、落ち着いてアタシ。ペースを乱されたら負けよ……よし!今日はまず、お礼を言いたかったの。マミ!フェリ!」
「え、私達?」
「おや」
「以前、天神の眷属と思われる個体が1階層に現れた時、アンタ達が力を貸してくれたと部下から聞いたわ」
水音はマミ達の顔を見た後、頭を下げる。そして力強い声で「ありがとう」と告げた。
「アンタ達がいなければ部下は死んでいたし、被害も大きくなっていたでしょう。助けてくれて本当にありがとう」
「別に気にしなくていいのに〜」
「ええ。当たり前のことをしただけですから」
先程までと違い、事務所内に和やかな雰囲気が流れる──ことはなかった。顔を上げた水音の目は鋭く、険しい顔で話を続ける。
「けれど、聞きたいこともあるの。あの日、アタシは応援要請を受けて現場に向かっていた。そこで……彼、八崎陸が星檻を呼び出しているのを見たわ」
空気が凍る。そうだ、隠さないといけないことはもう1つあった。しかし、まさか見られていたとは……マミが慌てて誤魔化す。
「そんなわけないよ!星檻は確かに現れたけど、えっと、あの白いのが何かやらかしたみたいで、勝手に現れたの」
「そうですよ。この世界に星檻を操れる者がいるわけないでしょう?」
「それは……そうだけど、でも確かにアタシは見たのだわ!陸、どうなの?」
「えっ!?いや、オレは……」
水音は自信があるのか折れない。どうするべきか悩んでいると、灯が代わりに返答する。
「急に来て何かと思えば……意味の分からないことを言うね。寝ぼけていたのではないかい?」
「は?アンタもその場にいたわよね?」
「いや?記憶にないな。大体、その場で声をかければよかったじゃないか。今更騒がれてもねぇ」
「それはアンタ達が!……いや、言い訳はしない。その通りね」
思っていたよりも簡単に水音は引き下がった。だが、安心する時間はない。水音はツカツカと歩き、ソファに座る。
「だからこれ以上は聞かないわ、ええ。ここからは別の用事よ」
灯が明らかに嫌そうな顔をするが、水音は気にしていないようだ。無視して話を続ける。
「地下世界で最近流れている噂は知っているかしら?人間が4階層に誘拐されている、というものよ」
「あ、私知っているよ!4階層に行くと、『帰りたい』『死にたくない』って不穏な声が聞こえるとか、怯えた人間の子供が『地上に帰らせてください!』って3階層まで逃げて来たとか……だよね?」
水音の正面に座りながらマミが答える。4階層……確か灯が『治安が悪い』と説明していた階層だ。
水音は頷くと、自身の知っていることを話し出す。
「その噂、どうやら人間に敵対的な地神様が関わっているらしいの」
「!」
マミが目を見開き、灯も真剣な顔になる。地下世界……いや、この星で最も強い種族である地神。もし本当に地神が関係しているのならば放置はできないだろう。
「確定しているわけではないの。ただの噂話の延長かもしれない。けど、もし本当なら無視はできないわ」
そう言う水音はやる気に満ちた目をしている。
「アタシの依頼はこの噂を調査して真偽を確かめることよ。ただ、これは仕事と関係のない、アタシがやりたいからやること。だから依頼を断っても全然構わないわ」
真っ直ぐに灯を見つめる水音。まだ彼女のことをよく知らない陸でも、彼女が真面目で正義感に溢れる性格だと理解できる。叶うなら力になりたい。だが、星檻の件を疑われている今、依頼を受けるメリットはないだろう。
灯は数秒目を瞑り、また開く。
「この依頼──」
♢♢♢
「地下世界に行きたいって言ったけど、まさか仕事として来ることになるとはなぁ」
現在、陸は異世界初日にいた場所、3階層の噴水前にいた。横に立っているのはマミと水音である。
陸はここに来る前の灯との会話を思い出す。
『いいかい陸。星檻のことは隠さないといけないが、キミだけ留守番にすると怪しまれる。それに、水音は自分が納得しないと諦めない奴だ』
『ええ……じゃあ誤魔化し続けるのは難しいんじゃ……』
『いや、逆に考えるんだ。これはチャンスだと。水音と共に行動し、陸にそんな力がないと思わせられればこれ以上追及されないよ』
危険だが、これから先のことを考えるとやるしかないだろう。
陸は隣で喋っている女子達を見る。灯との行動を水音が拒否した結果、灯とフェリは別行動になったが仕方ない。
(騙して申し訳ない……せめて依頼は絶対に成功させるから!)
心の中で気合を入れる。こうして、地下世界での噂調査が始まった。
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