第6話

その日はママと外に出た。


ドアを開けると、

空は思ったより暗かった。

ママは前を見て歩いて、

ぼくは少し後ろをついていった。


スーパーに行った。

冷たいところと、甘いところ。

ママはプリンをかごに入れた。

三つつながっているやつ。


ぼくはそれを見て、

少しうれしくなった。

三つある、というだけで

大丈夫な感じがした。


帰り道に歩いていたら、

靴の底が外れた。

ぱたっと音がした。


立ち止まると、ママが振り返った。

ぼくの名前を呼んでニコッとして

ぼくを背中に乗せた。


おんぶは久しぶりだった。

高くなって、ママの声が近くなる。

それがうれしかった。


しばらく揺れていた。

揺れながら、目を閉じた。





聞いたことのない声。

強くて、速くて、

空気がきつい。


目を開けたら女の人がいた。


知らない人。

でも、知らない感じが

しなかった。

顔は怒っているみたいで、

でも動かない。


ママは立っていた。

ぼくを背中に乗せたまま。

息の音が速かった。


道は静かだった。

車の音も遠かった。


ぼくはママの首に顔を近づけた。

さっきまでのプリンのことを思い出そうとした。


三つの、甘くて、冷たいやつ。

家で食べるはずだった。


ぼくはママの背中で

空を見ていた。


空はさっきと同じ色だった。

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ふたりふわり @futarifuwari

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