『The Quantum of the Opera』
繁華街の、とある地下小劇場へと続く階段の手前に『Eric』というバーがある。常連のほとんどは演劇人で、昭和の時代から通う客の中には名の通った演出家やプロデューサーもいるらしい。それに混じって、その夜は観劇を終えた人々が我先にとドアベルを鳴らしてEricに入っていった。年の瀬が迫り、氷点下の風が吹いて白い雪が舞い始めている。
赤石透もそういった客の一人だった。演劇に興味はないが、親友に是非にと誘われて時間を空けた。その親友が熱を出して来られなくなった。雪の予報が出ているし帰ろうかと迷ったが、支払ったチケット代が惜しくて一人劇場に向かったのだ。無名の俳優たちによる演劇『ラ・フォッスの囁き』は「オペラ座の怪人☆座・サイバーパンク!」とキャッチフレーズがつけられた前衛劇。脳内を爆竹で引っかき回されたような、奇妙な興奮状態を引きずったまま透はEricの扉を開けた。後ろから「すいませんね」と声がしてタクシー運転手が顔をのぞかせ、カウンター最奥の客が席を立つ。透はそこに腰を落ち着けた。
ボウモアのソーダ割を頼んで、ポケットに突っ込んでいたチラシを広げる。
「お一人でご覧になったんですか?」
隣席の女性だった。しっとりした黒髪に、少々時代錯誤な真っ赤な口紅、切れ長の一重。キツそうな顔だと思ったとき、不意に柔らかい笑みを向けられ心臓が跳ねた。抗うように事務的な態度で接したものの、無駄な抵抗だった。
「実は、私、あの劇団に好きな人がいて」
不可解なものだ。彼女が別の男に心を奪われているとわかった瞬間、恋に堕ちたことを認めざるを得なくなった。嫉妬を隠し、マティーニで淡く色づいた彼女の頬を見つめる。
女性の名前は黒田杏。主役のファントムを演じた俳優の幼馴染で、長い片思いの末に告白して振られ、今は友人関係だという。けれど恋心は消えない。
「黒田さんなら、素敵な人がすぐ見つかるのでは?」
杏ははにかんだ笑みを浮かべた。
「彼を見てると心が揺さぶられるんです。ドキドキしない恋のほうが長続きするって言われるんですけど、もし誰かとお付き合いしても、彼へのドキドキは消えない気がして」
「試しに誰かと付き合ってみてはどうですか? 軽い気持ちで」
「みんながそう言うんですけど……」
帰り際に連絡先を尋ね、まずは恋の相談相手として友人ポジションを得よう。そんな画策をしながら透はグラスを傾けた。しかし、
「杏、一緒に打ち上げ行くか?」
たったひと言でファントムは女を連れ去った。杏の瞳には熱が宿り、透への「楽しかったです」という言葉は社交辞令に過ぎない。
透は足繁くEricに通った。『ラ・フォッスの囁き』を演じた劇団について調べ、別の劇場に再度公演を観に行った。杏と偶然を装って再会したかった。年が明け、小劇場近くの稲荷神社に参拝し、Ericに顔を出した。透の他に客はおらず、バーテンダーは年始の挨拶を口にしながらボウモアの栓を開ける。
これまで気に留めなかったが、ずいぶん若いバーテンダーだった。茶髪の癖っ毛に色白の童顔。クリスマスに天使のコスプレをして女性客が騒いでいたのを思い出した。酒場には不似合いな無垢な印象を受ける。
「杏さんをお待ちですか?」
天使はボウモアのソーダ割を透の前に置いた。透は「さあね」と肩をすくめる。
「杏さんの心は不安定です。迷える仔羊ですね。まわりのご友人も心配されています。相手がはっきり突き放せばいいのですが、あの界隈では浮名を流してるくらいで。罪深い男です」
「同感です」
「赤石様が杏さんをお救いになっては? 新しい恋のお相手として。今夜、杏さんはあの劇団の方々の新年会に行っているはずです。ファントムと、彼の恋人もいます。同じ劇団員ですから。杏さんは平気なふりをして笑っているでしょう。新年会は、駅と反対方向にふたつ先の通りの『主旋律』というダイニングです」
透はコートに手をかけたが、立ち上がるのを躊躇した。透は劇団とは無関係。偶然を装って声をかけたところで杏を困らせるだけではないのか。
「群れをはぐれた哀れな仔羊。狼はなぜ仔羊に優しくするのでしょう。――それは、おまえを食べるためさ!」
演劇口調で、バーテンダーは爪を立てて襲いかかるような仕草をする。役者志望のアルバイトだろうか。
「ファントムは杏さんの幸福を奪う、強欲な狼なんです。早く連れ出してあげてください。私では無理なので」
「君は、杏さんを――」
「救いたいだけです。私自身は恋愛に興味がないのでご安心ください」
透がわずかに腰を浮かせると、バーテンダーは「いってらっしゃい」と天使のような笑みを向ける。その笑顔に背を押され、透は外へ駆け出した。頬が切れそうな寒さの中、全力疾走する男を通行人が物珍しそうに目で追う。そして、目的地にたどり着く前に透は杏を見つけた。
店の手前の曲がり角に、杏はひとり佇んでいる。すぐ透に気づき、頬を拭って「偶然ですね」と微笑んだ。目は赤く充血している。
「泣いてたんですか? 劇団の新年会って、Ericのバーテンダーから聞いたんですけど」
「……あ、ちょっと、居づらくなって」
「じゃあ、僕と飲み直しませんか?」
駅近くの居酒屋で、透は親友の助言を思い出して聞き役に徹し、帰り際に杏の連絡先を手に入れた。そして、一月の間に二度、ふたりでEricを訪れた。バーテンダーは満足そうだった。
二月の最初の金曜のことだ。透と杏は一緒にEricにいたが、ファントムの電話で杏は帰った。透はひとり残され、降りしきる雪のせいもあって客は彼だけになった。
「杏さんはまだ惑わされていますね」
バーテンダーの言葉に、透は苦笑する。
「彼女の目にはファントムしか映っていない」
「恋は麻薬です。好きな相手のことを考えるだけで心が高揚する。次はいつ会えるだろう、今日は連絡が来るだろうか、明日にはメールがあるかもしれない。期待と失望が渦巻き、その不確実性が杏さんを苦しめているんです。不安が増せば増すほど、不意の誘いは甘美なご褒美になる。杏さんはその甘さを忘れられない」
「それは僕もですよ」
透の自嘲を、バーテンダーは無垢な微笑で受け止めた。そして、「これを」と名刺サイズの紙を差し出す。白地に金の箔押しで『
「この建物に地下があったんですか?」
「招待制パティスリーです。ご用意できるのはオペラケーキのみですが、特殊製法で、その場でしかお召し上がりになれません。ご予約は必ずおふたりでとなっています」
バーテンダーはショップカードを裏返した。「招待状」とあり、「2月14日午後9時」と日時まで記載されている。その下の限定一組という文字を見て透は眉をひそめた。
「警戒なさらないでください。金銭のお支払いは必要ありません」
「ただより高いものはありませんよ」
「クォンタム店主の道楽なんです。特製オペラケーキを召し上がったお客様が幸せになってくれればいい。ただし、何もいただかないわけではありません」
透はまた眉を寄せる。
「そんなに怖い顔をしないでください。杏さんの惑う心をお支払いいただくんです。お渡しする領収書の金額欄には『
「quantum fluctuations――。量子ゆらぎ、ですか?」
バーテンダーは、透に初めて驚きの表情を見せた。しかし、それはすぐに天使の笑みに戻る。
「人間の感情とは量子ゆらぎのようなもの。赤石さんの眼差しが、杏さんの感情と欲望のゆらぎを収束させるんです。想像してください。赤石様が杏さんと愛し合っているところを。あっ、いかがわしい意味には捉えないでくださいね。色欲に溺れては再び道を誤らないとも限りません。お互いを見つめ、お互いを尊重し、労り、病めるときも健やかなるときも――」
透が思わず吹き出すと、バーテンダーは「もう」と血色のいい唇を尖らせる。毒気を抜かれ、透は招待状を受け取った。天使は天使なりに、杏との仲を取り持とうとしてくれているのだ。
「彼女に断られたら連絡を入れたほうが?」
「断られませんよ。二月十四日、街はチョコレートの匂いと恋人たちの囁きで溢れ、ファントムは恋人と仲睦まじい時を過ごすんです。赤石様がお誘いしなくても、杏さんはここに足を運ぶはずです」
バーテンダーの言葉は、この時の透には確定した事実に思えた。しかし、招待状を受け取って店を出て、スマホで杏の番号を表示して逡巡する。帰りの電車の中で『pâtisserie・Quantum』を検索したが無関係なケーキ屋ばかりだ。
親友の顔が脳裏を過ぎり、相談しようかと思ったが止められそうでやめた。それに、妻に浮気されている男の話など役に立たない。まだ不倫と確定したわけではなく、親友の妻が別の男と腕を組んで繁華街を歩くのを、今年に入ってから二度見かけただけだ。恋人同士でも夫婦でも、愛は永遠ではない。愛は常に揺らぎ、移ろっている。
シャワーを浴びながら、自分がその揺らぎを利用する側だと透は気づいた。杏の心がもっと大きく揺らげば、あの男から離れるかもしれない。杏が手に入るかもしれない。
しかし、誘って断られたら?
迷いとともに恐れも胸にある。杏もそうだろう。彼のそばにいたい、彼に嫌われたくない、彼に振り向いてほしい。欲望には不安がつきまとい、揺らぎ、迷う。透は杏が欲しいからこそ揺らぎ、迷っている。その欲を認め、濡れ髪のまま電話をかけた。バレンタインデーの一週間前のことだった。
✽
その日、透はEricで杏と待ち合わせた。パティスリー・クォンタムについては何も話さず、サプライズでおいしいチョコレートケーキを用意するとだけ伝えていた。杏はラッピングされた小箱を透に渡したが、黄緑色の包装紙に黄色のリボンの、いかにも義理チョコらしい配色だった。
ボウモアのソーダ割とマティーニのグラスが空になる頃、バーテンダーが「CLOSED」の札をかけた。店内にはまだ数組の客が残っていたが、透と杏はバーテンダーの案内で席を立つ。店の奥の突き当たりには、アンティークのエレベーターがあった。
「囚われたみたいね」
ケージのような庫内で杏が言い、エレベーターは鈍い音をたてて止まる。地下は薄暗く、降りてすぐのところに年季の入った扉があった。丸いガラス窓がついているが、中は暗い。
「ご予約の5番ボックス席です」
バーテンダーが扉を開けて透と杏を招き入れると、ふたりは感嘆の声を漏らした。ベルベッドの椅子は気品あるワインレッドで、座り心地は雲のようだ。左手に見下ろす舞台では男女が愛の歌をうたい、正面のバルコニー席でドレスの貴婦人とシルクハットの紳士が談笑している。天井の豪奢なシャンデリアが、無数の灯を揺らめかせていた。
「オペラ座ね」と杏。
「まるで本物みたいだ」
透が口にしたそのとき……、「ゲコッ」と聞こえた。会場はざわめき、観客の視線が舞台に注がれる。
「ゲコッ……ゲコッゲコッ……」
それは紛れもなくプリマドンナの口から聞こえた。狼狽した彼女は何か言おうとしたが、「ゲコ」しか喋れない。「続けろ!」誰かが声をあげる。ヒキガエルの歌が、会場にひどい静寂をもたらした。
杏が天井を見上げ、その視線を待ちわびていたかのように、揺らめくシャンデリアの灯が落下した。観客の叫びと、会場を揺らす破壊的な落下音。そして、闇が訪れる。
「黒田さん、大丈夫ですか?」
はい……、と聞こえた気がした。彼女の気配はたしかに感じられるのに、透がいくら手を伸ばしても、そこにあるのは滑らかなベルベッドの手触りだけ。
「どういうことだ!」
透は声に怒りを乗せた。もちろんバーテンダーに向けたものだ。すると、手すりの向こうに蝋燭の炎のような淡い光が灯り、バーテンダーが現れる。背には天使の羽根をつけていた。先ほどの映像を引きずっているせいか、まるで宙に浮いているようだ。光は手すりの向こうに留まり、杏の姿は見えない。
「安心してください。杏さんはちゃんとこの空間にいます。ただ、とても揺らいだ状態なんです。この蝋燭の炎のように。先日も言いましたよね。迷い、惑い、悩んで揺らぐ杏さんを救えるのは、赤石様のまなざしです。杏さんはあなたの隣に、いえ、あなたとともにそこにいます」
赤石さん、と杏に呼ばれた気がした。助けを求めるように、彼女の手が触れた気がした。バーテンダーは天使の微笑を浮かべ、その笑みを見て透はこれでいいのだと確信する。
「では、オペラケーキを作りましょう。パリのオペラ座がその名前の由来とされ、七つの層は観客席を表現しているという説があります。七というのは特別な数字ですよね。ラッキーセブン、七福神、神の創造の七日間、そして七つの大罪」
天使の舌は滑らかで、子守唄を聞いているような心地よさがあった。透は杏の存在を近くに感じ、これまで経験したことのない多幸感に包まれていた。
「傲慢――、彼の心を射止めるのは私であるべきだという傲慢」
天使は、真っ黒なゴブレットを宙に浮いた白い皿の上に置いた。どこから取り出したのかもわからない。まるで手品だ。次に、三角フラスコを出して紫の液体をゴブレットに注いだ。
「憤怒――、なぜ他の女を選ぶのかという憤怒。嫉妬――、彼の隣にいる女への嫉妬。怠惰――、新しい恋に向かおうとしない怠惰。色欲――、きっと彼に抱かれたかったはず」
天使は次々と液体を注いでいく。緑、赤、青、ピンク。最後に黄色と橙色のふたつを同時に出して、「強欲と暴食は、杏さんにはあまり関係ないかもしれませんね」と言いながら、やはりゴブレットに注いだ。
「人間の欲望と感情は、さながら混じり合った液体。魔女の鍋のごとく、ごった煮の状態になっているんです。だから人は迷い、惑い、悩み、道を見失う。カオスを抱えて正しく生きるのは難しい。赤石様もそう思いませんか?」
「はい」
透は迷いなく口にした。迷える仔羊を救う手は、迷ってはいけない。
天使はフワリと手すりを乗り越え、5番ボックスの中にやってきた。明かりは天使の顔とゴブレットだけを照らし、甘やかなチョコレートの香りが空間を満たした。どうやら、ゴブレットだと思っていたものはチョコレートでコーティングされたオペラケーキだったらしい。
「さあ、赤石さんの手で杏さんの迷える心を救ってください」
手渡されたナイフを、透はオペラケーキに刺し入れた。陶器と金属のぶつかる音がし、断面にそっと隙間をつくる。すると、かすかに椅子の軋む音がし、ガス燈が灯った。透の隣で、杏が笑みを浮かべている。これまで見たことのない深い笑みを。
「赤石さん、私、不思議な体験をしたわ。とても不確かな霧の闇を彷徨っていて、今にも消えてしまいそうな気がした。消えていたのかもしれない。ただ、赤石さんの存在をずっと感じていた。それが私を救ってくれたの」
その瞳に、あの男を見つめる時のような、浮かされた熱はなかった。しかし、また違う熱がそこに宿る。彼女自身への確信、そして透への信頼。
一方、透は熱に浮かされたように杏の手をとり、「愛してます」と曇りのないまなざしで告白した。杏は拒むことなく手を握り返す。天使は羽音をさせ、手すりの向こうへ飛び退った。
「おふたりとも、特製オペラケーキのこともお忘れなく。七つの層がすべて均一に揃い、至高の断面を描くクォンタム特製オペラケーキです。杏さんの心から『
天使は闇の中へと飛び去っていった。手すりには赤い封筒が残されており、中身は領収書だった。以前聞いた通り、金額欄には「Fluctuation」の文字。宛名は黒田杏となっている。
「不安や迷いを手放したという、記念のようなものだそうです。あのバーテンダーが言っていました」
杏はその文字をながめ、不思議そうに首をかしげた。
「なぜあんな不安定な状態でいられたのか、自分でもよくわからないわ。今はとても穏やかで、なんの迷いも感じない」
ふたりはオペラケーキを食べさせあい、これからのことについて話した。暮らす場所、両親への挨拶、結婚式の日取り、新婚旅行先、子どもは何人がいいか。迷いはなかった――5番ボックスにいる間は。
杏を送り届けて自宅に戻った透は、ふと夢から覚めたような気になった。コートのポケットから出てきた、小さな義理チョコのせいだった。5番ボックスでの出来事は、酔った末の妄想ではと考えたが、杏からは「おやすみなさい、愛してる」とメッセージが届いた。夢ではなさそうだった。
しかし、杏も酔っていた。「昨日のことは忘れて」と言われる覚悟をしたが、杏はむしろ透に迷いのない愛を向けた。透は胸の奥のかすかな疑念から目をそらし、「これで良かったのだ」と考える。罪深い男に振り回されて涙を流す杏の姿を見るよりよほどいい。
童顔のバーテンダーは、バレンタインデーの翌週には退職していた。透はバーの店員にパティスリー・クォンタムのことを聞いたが、誰もが首をひねるだけだった。
「まるで私たちを結びつけるために地上に舞い降りた天使みたい」と杏は言った。
ふたりは間をおかず同棲をはじめた。杏は幼馴染からの連絡に社交辞令で応じるようになり、劇団の集まりにも行かなくなった。Ericで劇団員と顔を合わせることもあったが、隣には透がいた。
ゴールデンウィークには互いの実家を訪れて両親に挨拶し、ふたりの左手の薬指には婚約指輪。結婚の準備も何の問題もなく進んでいた。しかし、日を追うごとに、透の胸の奥で疑念が広がりつつあった。
そして、六月半ばのある日のこと。Ericの前で偶然あの男と鉢合わせたのをきっかけに、透の疑念は確実なものとなった。
「あんた、杏に何をしたんだ? 変な薬やらせたり、怪しい宗教に入らせたりしてるんじゃないだろうな?」
ファントムは明らかに喧嘩腰だった。「酔ってるんですか」と、透は軽く受け流そうとしたが、男は強引に行く手を阻む。
「あんなのは杏じゃない。俺が子どもの頃から知ってる杏は、あんな気味悪い笑い方はしない。カルトで洗脳された知り合いがあんな目をしてた」
「言いがかりはやめてください」
透は逃げるように立ち去ったが、頭の中はまさにカオスだった。いや、本当はずっとゆらいでいたのを、あのバーテンダーの微笑みが一時それを忘れさせただけだったのではないか。バーテンダーの言葉への無批判な信頼、非現実的な状況を正しいと感じる不可解な確信。――今の杏は、自分が愛した杏とは違うのではないか?
「なぜ僕は揺らいでる?」
「――quantum fluctuations」
ひとり言に返事があり、透は顔をあげた。あの童顔のバーテンダーが、翼を背負って目の前に立って……、いや、浮いていた。
「迷える仔羊を導くのが私の使命。基本的に私は女性担当なのですが、杏さんの件でお世話になりましたし、特別に手を差伸べることにします。オペラケーキはごちそうできませんが、どうぞこれを」
天使は闇のような黒い封筒を差し出し、透は流されるまま受け取る。封はされておらず、中身を確認しようとしたら「ストップ」と天使が止めた。
「その封筒の中には赤石様のゆらぎがあります。収束させたくなった時に開けてください」
透が手元の封筒に視線を落としたとき羽音がし、顔をあげると天使は消えていた。
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