The Quantum of the Opera

砂東 塩

はじめに

 まず、この物語は限りなく実録に近いフィクションであることをお伝えしておきます。また、賞への応募にあたり文字数制限があったため、簡潔な「だ・である」調に留めることをご容赦ください。以下、私が人生で初めて小説を書くに至った経緯をご説明します。


 昨年、親友とその婚約者が行方不明になった。本編ではふたりの名前を赤石透、黒田杏としている。当然ながら仮名である。透と杏さんが交際を始めたのは去年のバレンタインデーだ。私は透からその日に告白すると事前に聞いており、吉報を我が事のように喜んだ。杏さんはすっかり透に惚れ込んでいる様子で、世の中にこんなふうに愛し合える恋人同士がいるのかと感心した。妻に対して少々申し訳ない気持ちになったほどだ。


 ふたりは同棲を始め、互いの実家を訪れ、結婚の話を進めた。しかし、付き合い始めて四ヶ月ほどで透が姿を消した。夏至を待たず杏さんもいなくなった。以来、連絡がつかない。


 私は透の両親に請われて彼らのマンションを訪れた。杏さんの両親も加わって手がかりを探した。見つけたのはベッド下に赤と黒の二通の封書。両方に領収書が入っていた。赤い方は宛名が黒田杏。発行者は『pâtisserieパティスリーQuantumクォンタム』で、店名と住所のみが印で押され、但し書きには「特製オペラケーキ(5番ボックス)」とあった。全員が首をかしげたのは、金額欄の「Fluctuation」の文字。


 そして、もうひとつの黒い封筒の両端に指をかけて寄せ、内側に空間を作って片目で覗き込んだその時、私は中にある紙の中央(金額欄)にじわりと文字が浮かび上がるのを見た。あれは決して見間違いではない。領収書の日付は「2025年6月13日」、宛名は赤石透、金額欄にはやはり「Fluctuation」と書かれているが、こちらは発行者が無記載だった。


 私は失踪した杏さんの顔を思い浮かべ、そこに手がかりがあると直感した。違和感は最初からあったのだ。


 マンションの鍵を借りて調査を続け、私はついに透と杏さんに何が起きたのかを完全に理解した。そして、この荒唐無稽な話を世に広めなければならないと強く感じた。賞典が文芸誌掲載のコンテストに応募することにしたのはそのためである。


 しかし、私は素人だ。本編はAIを使うなどして推敲を重ねたが、理解しづらい部分があっても、それは「ゆらぎ」だと思ってほしい。読者の方々が「ゆらぎ」を放棄しないことを願っている。

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