竜をも殺す刀

「――元々は魔物が多く、ここまで賑わっていなかったのですが、賢者様が魔物の発生源であるあの山に住み始めてから魔物は激減。国内でも有数の安全地帯となったんですよ」


 ふかふかのベッドや飲み込まれてしまいそうな椅子に各々腰掛けながらアスタの話を聞く。


「流石に、賢者様はご存知ですよね?」

「ええ、もちろん。二年前に勇者様と共に魔王を討伐し、史上三人目の英雄となった僕らのせんせ…先頭に立って戦った人ですよね」

「先頭?……ああ、そういうことですか。強いとは思っていましたが、その年であの戦争に参加されていたとは……」


 危ない所だった。安易に明かさないようネフィに言われたのだった。


「ともかく、そういう理由で護衛を一人しか付けずに移動してたのね」

「ええ。魔物と遭遇するなんてほとんどありませんし、遭遇したとしても一人で対処できる……はずだったんですけどね」

「だとしても、大事なお坊ちゃまにしては護衛が少なすぎるんじゃない?」

「あはは、ですか」


 アスタは目を逸らし、微笑みながら言う。


「あの人にとっては僕のような養子はもちろん、実子でさえも大事なんかじゃありませんよ」


 その笑みには諦めのような寂しさのような誇らしさのような、とても言葉にできないが乗っていた。


 ――外の喧騒が聞こえる。


 アスタは姿勢を正し、日差しとともに言葉を紡ぐ。


「お二人はこの後どうするんですか?約束ですから、まだまだお手伝いさせていただきますよ」

「……そうね、取り敢えず当面の宿とご飯の心配は無くなったから、本格的に冒険者始めるための道具でも買い集めようかしら」

「てっきりベテランの冒険者だとばかり………いえ、そういう事ならお供しましょう」



「それじゃあ私達は適当に露店を見てくるから」


 アスタとネフィは勿論、「アスタさんが行くなら私も行きます。それが護衛としての仕事ですから」と言ってルドワーも買い出しに行ってしまった。成る程信用されるわけだ。

 本当はついて行きたかったが「余計な出費が増えるから」と置いて行かれた。ついでに財布も取り上げられた。


「こっちは信用されてないな〜」


 仕方無い。一人で適当に散策するか。



「へぇ、これ良い剣ですね」


 適当に鍛冶屋に入ってみるとずらりと直剣が並んでいて、その中でも特に無骨な一振りに目が止まった。片刃で極太。装飾はほとんど無いが柄は握りやすいよう丁寧に仕上げられていて、その全てが叩き斬るためにあるかのようだ。

 何より、が良い


「お、分かってるね〜。けど、それは兄ちゃんには使いにくいだろ。折角だし良いのを見繕ってやるよ」


 髭が良く似合う店主に声をかけられる。


「お言葉はありがたいですけど、今手持ちがなくて……」

「なんだ文無しかい。じゃあせめて試し振りくらいしてくか?」


 予想外の言葉に胸が高鳴る。


「良いんですか!?では是非!」

「くくっ、元気が良いな!」



 ブンッブンッ


 と空気が裂ける。やはり重い。しかし細かい仕事の丁寧さが心地良い。


「……兄ちゃん、思ったよりやるな。決してデカい体じゃないのに、何でブレずに振れるんだ?」

「えっと…?師匠は僕とそこまで変わらない体格で、その体より大きな武器を軽々振っていましたよ?」

「………はは、そりゃ人間じゃないな」


 信じてなさそうだ。しかし、本当に良い武器だな。


「このなら竜種でも殺せるんじゃないですか?」


 一瞬店主は真面目な顔になる。


「兄ちゃん、もう誰かから聞いたか?この地に残る竜殺しの伝説」


 首を横に振って応えると店主は続ける。


「なんでも、大昔に凄腕の武人が馬鹿でかい刀で竜種の首をぶった斬って退治しちまったらしい。そして、その首がこの地の何処かに眠ってるんだとか」


 何とも夢のある話だ。


「武器のまで分かるんだ。知ってんだろ?竜種の生命力は半端じゃない。たとえ首を切断しても、普通はすぐに繋がっちまう」


 魔物は基本的に普通の武器じゃ死なない。それでも倒そうと思ったら生命力を上回る程のダメージを与え続けて、無理やり仕留めなければならない。

 魔物の種類にもよるが、目安としては原型が無くなる程だろうか。

 そこでと呼ばれる特殊な金属を混ぜ込んだ武器が用いられる。

 抗鉄が含まれる武器はその純度に応じて反射光が僅かに色付く。それが武器のと呼ばれ、そのが優れるほど魔物を仕留めやすいということだ。


 ――が、圧倒的な生命力を持つ竜種はそんな武器でもそうそう死なない。


「そいつはその伝説を再現するべく、俺が持てる技術の全てを注ぎ込んで打ったんだが……全然純度が足りねぇんだ」

「試したんですか?」

「二年前の戦争で当時の騎士団長に使ってもらったんだ。大鬼種オーガですら一撃で屠れるって喜んでたらしい」

「それは凄いですね」

「けど…………死んだんだ。竜種に為す術も無く、やられたらしい」


 ……正直、これほどの武器は過去に一度か二度見た程度だ。これで勝てないとは……不謹慎ながら


「ま、そんなわけだ。兄ちゃんはいつか大物になるだろうから、そん時は何か買いに来てくれよ!待ってるぜ!」


 そうして鍛冶屋の店主と別れ、その後は色んな店を見て回った。……手持ちがないと知るや否やほとんどの店で追い出されたが。

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2025年12月30日 00:00
2025年12月31日 00:00
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アルの足跡 ながな @naganagatuki

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