アルの足跡

ながな

守護者と剣士、策士と狂犬

 小鬼種ゴブリン。棍棒5、弓2、そして杖1。魔法使いまで居るとは珍しい。

 対して、襲われている馬車は護衛が一人だけか。


「ネフィ、僕が弓使いと魔法使いを斬る。援護を頼む」

「はいはい。その後はいつも通りね」


 草陰から飛び出し、魔法使いの背後から接近する。

 そして抜刀。がら空きの首をはね、そのまま一息で弓使いに肉薄する。異変に気付いて棍棒持ちが一匹振り返るが、あくまで狙いは弓使いだ。

 突然現れた脅威に慄き、硬直している其奴を一刀の下に斬り伏せる。


 ゲギャギャ!


 直後に二匹が反応し計三匹が接近してくるが、それを無視して最後の弓使いの元へ向かう。


 ブン


と棍棒が風を切る音が聞こえるが、それが当たる前に光る矢が小鬼ゴブリンの手ごと棍棒を吹き飛ばす。

 驚愕に目を見開く弓使いを両断し、そのまま両手を失ってのた打ち回る小鬼ゴブリンを貫く。

 残りの二匹も矢が刺さって動けなくなっていたのでとどめを刺す。


「あれ、逃げないのか」


 最後の二匹が向かって来たのでまとめて両断する。


「助かったよ、ネフィ」


 刀に付着した血を払い、布で拭ってから鞘にしまう。突然の事に目を瞬かせる護衛の男の、荒い息遣いがやけに耳についた。



「いやぁ助かりました。お二人共、相当腕が立つようだ」

「背後からの不意打ちでしたし、二人がかりだったので……それより、よく一人で持ち堪えていましたね?」

「あぁいや、私はほら、この盾がありますから。耐えるだけならそう難しくないんですよ。しかしこのままだと危ない所でした」


 そう言って男はバンバンと盾を叩く。重そうな盾だ。


「アル、そういうのは後にして。あんたの雇い主ってあの商人?」

「え、えぇ。今は荷物の確認をしているようですが、何か御用でも?」

「そう」


 ネフィはズンズンと商人の所へ歩み寄る。相変わらず、がめつい事だ。


「ちょっと良い?」

「はい!なんでしょうか?」


 小柄で気の弱そうな男だ。まだ成人もしていないのではないだろうか。対するネフィは以前、「人の命より金を優先する女」、「見た目詐欺」、「財布の番犬にして狂犬」とか呼ばれていた。……なんだか少年?が可哀想だな。


「何って……謝礼よ、謝礼。私達が来なかったらヤバかったんだから、ちゃんと払うわよね?」

「それはもちろんです!……あとその、よろしければこのまま護衛をしていただけないでしょうか?」

「はあ?……ちゃんと報酬は出るんでしょうね」

「ここから三時間ほどの道のりですから、お一人当たり銀貨3枚で如何でしょう?」


 この状況で交渉を始めるとは、思ったより目敏い。しかし……


「3枚?安すぎるわね」


 やはりそうなるか。


「さっきの見たでしょ?私達はそこらの冒険者とは比べ物にならないの」


 謙遜は何処に捨ててきたのだろう。


「確かに凄い腕前でした。しかしこの辺りは魔物が少ないのです。それでも相場の倍は出していますよ」

「だとしても!さっきは」

「それに、どうやらここらの冒険者ではないようですね。目的地に着いたらお手伝いできることも多いかと思います。ですのでで、銀貨3枚で如何でしょう?」

「な、さっきの分は……!」


 ネフィはしまったという顔をする。


「これは失礼しました。では合計でお一人当たり銀貨5枚で如何でしょう?」


 ネフィが低く唸る。


「…………一人当たり銀貨6枚よ。そして街に着いたらこき使ってやるから覚悟しなさい」

「はい。喜んで!」


 凄い。失礼ながら、こんな様子で商人なんて務まるのかと思っていたが、悪名高きネフィを黙らせてしまった。


「彼、凄いですね」

「ええ。私なんかは交渉とか取引とか全っ然駄目なもので、羨ましい限りです」


 そこまで話したところで、ネフィが僕らを呼ぶ。


「確認済んだから出発するってー!二人とも早くこっち来なさーい!」


 一瞬二人で見つめ合い、同時に歩き出す。何だか仲良くなれそうだ。



「改めまして、ここが目的地のアンフォルジュです。王都からは離れていますが、鍛冶職人が多く住んでいて、よく冒険者の方が訪れるそうですよ」

「ふーん。まあ先ずは宿ね。アスタ、安く泊まれる所知らない?」


 商人の少年はアスタと言うらしい。


「ええ、良い所がありますよ。ついて来て下さい」


 そう言うとアスタは迷いなく進んでいく。

 そして辿り着いたのは……


「……随分大きいですね。一泊でも結構するんじゃ………?」


 ネフィも怪訝そうな顔だ。護衛の男、ルドワーは何故か楽しそうだ。


「ここは父の商会が運営する宿屋でして。お代は結構ですので、是非寛いで行ってください!」

「………あんた、思ったより凄いのね」


 全くだ。


「くっくっくっ……やっぱりそういう顔になりますよね!いやぁ分かります!私も最初はそうだったんですよ!」


 成る程、それで楽しそうだったのか。憎めない人だ。


「ルドワーさんは以前からアスタさんの護衛を?」

「ええ、と言っても二月くらいですか。冒険者としては特別腕が立つわけでもない私を好待遇で雇ってくださって、頭が上がりません」

「皆さん、立ち話も何ですし、入りましょうか」


 後で分かったことだが、ここはトップクラスの冒険者や上級騎士がよく利用する宿で、ほとんどの人間は中を拝む機会すらないのだとか。………一体一泊いくらするんだか。

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