第4話 黒豆茶

「どや、囲炉裏。えぇやろ。前の人らが引っ越してから、俺もタカさんに使わせてもろててん」


火を眺めていると、新島が台所から急須を持って入ってきた。


囲炉裏の真上には、天井の梁から棒状のものがぶら下がっている。

それは“自在鉤”というらしく、下部がかぎ状になっており、囲炉裏の火から浮かせて鉄瓶や鍋を温めることができるそうだ。


囲炉裏の上に鍋がぶら下がってるイメージは、これか。


今はそこで、鉄瓶をぶらさげてお湯を沸かしている。

湯気がもうもうと立ち上っていく。


新島が鉄瓶から急須に湯を移し、そして、浅い皿にも湯を入れる。


「それは?」


「ごんたろの分や。寒なってきたから白湯にしたろおもて」


「ごんたろ?」


「そのドラゴンくんの名前。えぇやろ」


ドラゴン改めごんたろは、自分が呼ばれたと察したのか、丸くなったまま片目を開け、こちらを見た。


わたしたちはお茶を淹れて飲む。

そして、二人揃って「あー」と至福の息を吐いた。


お腹の内側からじんわり暖かくなる。

なんだろう、この幸福感。


「これ何茶?」


「黒豆茶。ここらが産地やねん。うまいやろ?」


わたしは素直に頷く。

めちゃくちゃ美味しい。


「新島はここに住まないの? 囲炉裏あっていいじゃん」


「おれは自分の家をらぶちゃん仕様に変えてしもてるからなぁ」

そう残念そうに言う。



それからしばらく新島は薪をいじっていた。

爆ぜる火の音だけが聞こえる。

穏やかな沈黙だ。


やがて新島が口を開いた。


「囲炉裏には神様がおらはるいうてな。家を守ってくれはるねんて。火ぃ焚いてみんなで賑やかにしとったら喜ばはるやろって、タカさんが」


「新島も神様とか言うタイプだっけ?」


「まぁ、信心深いわけやないんやけど、なんやこっちで暮らし始めたら、神様かわからんけど、いろんなとこになんやおらはる気ぃしてなぁ。ま、タカさん住む人探してはったんやし、ほんまコウが来てくれてよかったわ」


「ふぅん」


さては、元々隙あらば誰か連れて来られないかと狙っていたな。


「あ、そういえばここら辺て、ミステリーサークルも目撃されたんやって。 結構おもろい場所とこやろ」


新島が耳寄り情報のように付け足した。

全然嬉しくないのだが。




やがていい温度になった白湯を、ごんたろの前に置いてやった。


ごんたろは、最初舌を出してちびちび舐めていたが、やがてくぴくぴと夢中で飲みはじめた。

気に入ったようだ。


やがて顔をあげると、

「ンあー」

と、ドラゴンなりの至福の表情で息を吐いた。


「ははっ。お前、そんな声なんか。美味かったか?」


新島が聞くと、

「ンあ!」

と満足そうに、返事のような声をあげた。

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