出口
——出口は、いつも説明の反対側にある。——
出口は、最初から見えていた。 それは後になって分かったことだが、見えていなかったのではない。 見ないようにしていただけだった。
硝子を伏せればよい。 巣から出るのに、鍵はいらない。 ただ、手首を返し、机の上に置くだけだ。
私は、その動作を、何度も頭の中でなぞった。 なぞりながら、同時に、言葉を用意していた。 伏せる前に、何を書くか。 伏せた理由を、どう説明するか。
説明―― その語は、いつの間にか、私の中で、重くなっていた。 説明は、便利だ。 説明は、理解を呼ぶ。 理解は、拍手に変換される。
私は、拍手を欲しがっていたわけではない。 ただ、拍手が鳴る形でしか、 自分の存在が、数えられない場所に、 長く立っていただけだ。
君のことを、考えた。 君が、何も説明しなかったこと。 説明できなかったのか、 説明しなかったのか、 今では、その違いも、曖昧だ。
私は、説明する人間だった。 声が削れないように、 言葉が傷つかないように、 すべてを薄く包み、 硝子の上で滑らせる。
だが、包めば包むほど、 中身は、遠くなる。 包み紙の手触りばかりが、 手に残る。
私は、ふと、 声の巣を、巣ではなく、 池のようだと思った。 声は、水面に落ちる石で、 波紋だけが広がる。 石そのものは、 すぐに、見えなくなる。
私が書いた言葉も、 波紋になった。 きれいな円を描き、 誰かの水面と重なり、 やがて、消えた。
石は、どこへ行ったのか。 石は、池の底に沈んだ。 底に沈んだ石は、 数えられない。
数えられないものは、 ここでは、存在しない。
出口は、 数えられない場所にあった。 だから、 出口は、いつも、 見えているようで、 見えなかった。
私は、硝子に触れた。 冷たかった。 冷たさは、確かだった。 確かさだけが、 まだ、現実の証拠だった。
伏せようとした。 だが、その前に、 私は、自分が 伏せるところを想像されている 気がした。
誰かが、 「沈黙」と書いた見出しを、 もう用意している。 誰かが、 私の不在を、 説明しやすい形に 整えている。
私は、立ち止まった。 立ち止まった、その一瞬が、 また、言葉になりそうだった。
出口は、 そこにあった。 だが私は、 出口の前で、 自分の影を 測っていた。
測り終える前に、 私は、また、 硝子の方を見ていた。
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