1-4
「相変わらずカナタは無難ですね。そのくらいのペースで狩りをしてくれれば最悪このまま依頼がなくてもぎりぎり何とかなるくらいの量です」
「それならなんで不服そうな表情なんだよ。十分だろ?」
表情を変えずに言ってきたカスミの嫌味を、いかにも慣れている対応でカナタは受け流す。
「そうよ。無難で助かるじゃない。夜露草は私が持っていくわね。他の材料はあるから傷薬を調合してから売りに行っておくわ」
ことさらに明るい声で割り込んだミズキを見て、カナタは苦笑しながら夜露草を渡して残りは倉庫にしまうために店の奥へと入っていった。
すぐに鼻歌を歌いながら調薬作業に入ったミズキをちらりとみてから、カスミはたった今仕入れられたカナタの戦利品を町内の各商店へと卸すための準備を始める。
狩りや素材探しなど町の外の仕事はカナタの領分であり、一方で物品の売買や依頼の受注交渉、さらには店の書類仕事など町の中の仕事は概ねカスミの領分であった。
しばらくして店舗スペース、入り口から三分の一程が土間で残りが板張りとなっている店の玄関口、へとポーチと装甲を外して身軽になったカナタがタオルで汗を拭きながら戻ってきた。ちなみにこのタオルはホミネス王国からの輸入品であり、集合国家ヨウセイでは昔ながらの手ぬぐいが存在するが、割高である上にタオルのほうが吸水性に優れるため若者は一般的にタオル派がほとんどとなっている。
「ちょっと気になったことがあるんだけど……」
いかにも何と言えばいいのか分からないといった風情で発されたカナタの呟きに、ミズキが作業の手を止めて顔をあげた。
「気になること? 町の外で何かあったのかしら?」
町の外といっても集合国家ヨウセイの一般的な町はホミネス王国やカッツェ神聖帝国のように外壁で囲まれているわけでもなく、徐々に家屋や畑が途切れていく辺りから外側を町の外と呼び習わされている。
「気のせいかもしれないけど。魔獣の数が普段より多いような気がした。あと、上手く言えないけど狩ったグレートボアの気が立っていたように感じたんだ」
「皮や牙には変なところは無かったのですか?」
言った本人が今ひとつ納得できていない、といった風なカナタの様子に書類仕事に没頭していたカスミも顔を上げて訝しげに口を挟んだ。
「うん。倉庫にしまいながらもう一度確認してみたけどそれはいつもどおりだったよ。だから気のせいだったかな……と」
自分で言い出しておきながら自信がない素振りをするカナタに、二人は見るからに反応に困っている。
「明日も狩りには行く予定よね?」
壁にかけられた黒板に書かれた一週間の予定を見ながらミズキは続けた。ちなみに一週間は火の日、から始まって水風土闇光の六日間で構成されており、これは魔術における自然界を構成するいわゆる六大属性の名前をそのまま利用している。
こういった魔術的自然観はホミネス王国とカッツェ神聖帝国の二大国で一般的であるため、五属性を基本とする精霊術が一般的である集合国家ヨウセイも含めて火水風土闇光の一週間が大陸共通であった。また、さらに五週三十日で一ヶ月、十二ヶ月で一年とされている。
「慎重に様子を見るようにしなさい。それで明日の狩りでも違和感があるようなら手ぶらでもいいから帰ってくること」
「わかった。二人に心配かけないように安全最優先で行動するよ」
稼ぎよりもカナタの身の安全を心配するミズキの忠告に暖かいものを感じて、自然と頬が緩みながらカナタは返事をした。
「そんなことを言って、結局無茶をして心配かけるのです。カナタが思っているよりももっと慎重に行動してくださいよ」
心当たりのありすぎるカスミからのありがたい忠告に、笑みを苦笑に変えながらカナタは改めて返事をするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます