一章 影霊生起

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 ソード大陸。中央部には人跡未踏の地を残すほど広く、多種の種族が多様な国家を形成する。俯瞰してみると履き口の広いブーツを横に倒したような形をしており、靴底にあたる東側には身体能力に優れ剣と勇気を重んじるカッツェ族が、履き口にあたる西側には魔力に優れ魔術と知識を重んじるホミネス族が、それぞれ主たる構成種族として権勢を振るっていた。

 

 東のカッツェ神聖帝国と西のホミネス王国が大陸の主要構成要素であることは疑いないが、もちろん他にも種族は存在する。それ以外の種族、主要二種族からは多少の侮りを含んで第三種族と総称されるいくつかのうち、数の上で最大勢力であるのがヨウセイ族であり、大陸中央の北よりに居を構え独自の文化を発展させていた。

 

 ヨウセイ族は、比較的小柄な体躯と長い耳が特徴の種族であり、力の強さや走る速さはカッツェ族より劣り、魔術の威力や魔術を使う原動力となる魔力の総量ではホミネス族に劣るため、主要二種族からは侮られることの多い種族である。

 その実、身体的にも魔術的にも器用で持久力があるため苦手の少ないバランスの取れた能力をしているが、絶対的な強みを持たずまた単純に数が多くないため第三勢力に甘んじている。

 そんなヨウセイ族の勢力圏、集合国家ヨウセイの中でも南より、大陸全体で言えば中央の盆地をぐるりと囲む円状山脈のやや北よりといった場所にフモトという名の町があった。一般的なヨウセイ族の建築様式である木造の平屋が整然と並び、町の中央を貫く大通りには人が行き交い道に面した商店が活気良く呼び込みをする、立地としては完全に田舎であるために独自の文化をそのまま残して発展した独特の空気感のある町であった。

 

 

 

 便利屋――カッツェ神聖帝国の様な精強な軍隊も、ホミネス王国の様な精鋭ぞろいの冒険者ギルドも持たない集合国家ヨウセイにおける庶民の味方。営利団体ではあるが強力な戦闘能力や便利な技能を持ち、報酬しだいで危険に立ち向かう彼らは集合国家ヨウセイに暮らす人々にとって欠かせない存在と言える。

 そう、この大陸にはそうして立ち向かうべき危険が存在した。人類種全てにとっての共通の敵である魔獣や自然界の魔力偏在によっておこる魔力災害である。

 

 世界に遍く存在する魔力と呼ばれるエネルギーの所在は均一ではなく常に変動し流動する。そのため何らかの原因により極端な偏りができてしまうことがあり、そうした場合局所的に濃くなった魔力によりエネルギーの暴風である魔力嵐や魔力により世界の一部が浸食される異界化といった魔力災害が発生する。

 また、その様に自然界に干渉する魔力は当然のこと生物にも干渉し、魔力による干渉に理性と意思で抵抗できない動物や虫などが魔獣と呼ばれる魔力を帯びた獣へと変貌する。ばらつきはあるが魔獣はみな攻撃性が増すために放置すると通常の野生動物とは比較にならない被害がでるうえに、魔力災害と比べるとはるかに発生頻度が高い。

 そのため便利屋の仕事とは専ら魔獣狩りとなっている。

 

 集合国家ヨウセイにおける魔獣や魔力災害への対抗手段たる便利屋だが、その実文字通りにただの何でも屋であり決して大規模な組織ではない。

 カッツェ神聖帝国では国軍、ホミネス王国では冒険者ギルドという大組織が魔獣や魔力災害に対処するが、そういった大組織を形成するほどの国力がない集合国家ヨウセイにおいて必要にかられて発生し、独自に発展してきたのがこの便利屋であった。

 四、五人程度の小規模なものから数十人を抱える大規模なものまで存在するものの、本質的には上下関係は存在せず、便利屋間での情報交換や調整は商人組合にて行われていた。

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