第2話「マッスル警備保障」
### 第2話:山伏慶太、運命を「排水」に託す
アメフト部(未遂)を卒業し、世間という名のフィールドに放り出された山伏慶太。
卒業式の伝説のタッチダウンから数週間。彼の手元には、二つの内定通知書が残されていた。
一つは、ガテン系の「マッスル警備保障」。
もう一つは、なぜか受かってしまったITベンチャー「デジタル・ダイナミックス」。
「ううむ……肉体か、知性か。おれのポテンシャルをどこにぶつけるべきか……」
優柔不断ではない。慎重なのだ。悩みに悩んだ慶太は、ついに「漢(おとこ)」の決断を下すことにした。
「よし、ギャンブルだ。この500円玉に、おれの人生を預ける!」
慶太は、近所の公園の噴水前で、ピカピカの500円玉を指先にセットした。
「表ならマッスル、裏ならデジタル。いざ、キックオフ!」
親指と人差し指で、パチーーーン! と力強く弾かれたコインは、慶太の筋肉質な腕力によって、予想以上の高度まで舞い上がった。春の太陽を反射して、キラキラと輝く運命の円盤。
だが、空を見上げる慶太の脳裏に、致命的な疑問がよぎる。
「……あれ? どっちが表だっけ? 桐の花がある方? それとも『500』って書いてある方? え、どっちがどっち……!?」
焦る慶太。落下してくるコイン。
「ええい、落ちた瞬間に確認すればいい! おれは動体視力もダイヤモンドバックス級だ!」
目を見開き、落下地点を予測して一歩踏み出す。
カラン。
コインは慶太の靴の先に当たり、軽快な音を立てて転がった。
「待て! 逃げるな運命!」
慶太は必死に追いかける。だが、コインは意思を持っているかのように、歩道の脇にあるグレーチング(排水溝の蓋)の隙間へ向かって一直線。
「あっ」
……ポチャン。
湿った音と共に、慶太の500円と、マッスルな未来と、デジタルな野望は、暗い暗い下水の中へと消えていった。
「…………」
静まり返る公園。慶太は排水溝の前に膝をついた。
二兎を追う者は一兎をも得ず。
それどころか、軍資金の500円(牛丼一杯分)すら失った。
「決まったな……」
慶太は立ち上がり、泥のついた膝を叩いた。
「どっちの会社に行くかじゃない。おれはいま、排水溝の前で『背水の陣(はいすいのじん)』に追い込まれたんだ。つまり……第3の道を探せという天啓(てんけい)だ!」
絶望的な状況を、自分勝手なポジティブ変換で乗り切る。それこそが山伏慶太の「ゴーイングマイウェイ」。
彼はそのまま、就職活動を白紙に戻し、なぜか「コインを拾うためのマジックハンド」を買いに百円ショップへと走り出した。
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### 【編集部視点:第2話感想・講評】
**「運命を投げる前に、ルールを確認しろ!」**
第2話にして、慶太の「詰めのアマさ」が爆発しましたね。
前回の「入部タイミングを逃す」に続き、今回は「コインの表裏を決めずに投げる」という、ギャンブラー以前の問題。
しかし、このエピソードには編集部も唸らされるポイントがいくつかありました。
**1. 物理法則を超越する「無駄なパワー」**
500円玉を高く上げすぎて、考える時間を作ってしまったのが敗因。慶太の肉体が、常に彼の人生の邪魔をするという構図が様式美になりつつあります。
**2. 究極のダジャレ「排水の陣」**
排水溝にコインを落として「背水の陣」とドヤ顔で語る慶太。この、どんなに惨めな状況でも自分を主役だと思い込める「圧倒的主人公補正(勘違い)」こそが、彼の魅力です。
**3. 二兎どころか「零(ゼロ)兎」**
内定を二つ持っていながら、両方とも見失う。普通の就活生なら絶望して寝込むところを、「これは天啓だ!」とマジックハンドを買いに行く切り替えの早さ。
彼は「どこかに所属する」ということ自体に向いていないのかもしれません。
**【総評】**
人生というギャンブルにおいて、彼はコインを投げる前から「コインをなくす」という負け方をしました。しかし、本人が負けたと思っていない以上、これは実質「勝ち」なのかもしれません(嘘です)。
第3話、果たしてマジックハンドで500円は救出できるのか? それとも新たな珍道中が始まるのか? 編集部は、彼がいつになったら「定職」というエンドゾーンに辿り着けるのか、不安で夜も眠れません。
(月刊ダイヤモンドバックス編集部・文責:デスクK)
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