午後ちゃん
「……な、なんだった…の?」
しばらく腰が抜けて動けなかったウィチが呟く。
この店は
品物も、建物も、どれもどれも母が大切に守ってきた大切な宝物だ。
嵐が来て壊れても直し、強盗が足を踏み入れようものならば容赦なく魔法を放つ。
そこまでして守ってきた店をウィチに継いでくれたのは、きっとウィチを信じてくれているからだろう。
そう思うと視界がぼやけてきて、涙が出てきた。まだ気持ちの整理ができていない。
「キュィ……。」
そんなウィチを心配するかのように声を掛けたのは、ウィチの使い魔、小さなコウモリのドラだ。
「ご、ごめんね、泣いてる、暇じゃないね、。」
まだ震えているウィチを慰めるようにドラは頭に飛び移り鳴いた。
「キュ…。」
その優しさを受け、ウィチはまた涙を流す。
「どうしよう、どうしよう、か、母様から継いだお店なのに、」
あのニックと名乗った客、いや、あんなのは客じゃない。
ニックに復讐しないと。母様の店を守らないと。
ウィチの中でなにかに火が付いた気がした。
「あいつ…、ゆ、許さない……。」
昨日の事だが、ついさっき起きたかのようにずっと頭に残る。最悪だ。こんな記憶なんて消してしまいたいほど。
母様の店を壊してしまった罪悪感と、悲しみが襲ってくる。
そんな時に慰めてくれるのはいつもドラだった。コウモリだとしてもある程度は人の気持ちがわかるらしい。
「…『見つかってない』って、なんだったんだろう…?」
昨日ニックが安堵したように呟いた言葉。
『よかった。まだ見つかってないみたい…。』
ただ、考えていても埒が明かない。無力なウィチにできることはせいぜい店の修復ぐらいだろう。
しかし、仲間を探せば話は変わるかもしれない。
「ある程度の修復が終わったら、仲間になってくれる人を探そうかな。」
「おつかれさま、ドラ。手伝ってくれてありがとう。」
包みを開けるとサンドイッチが入っている。
不器用なウィチが作ったぐちゃぐちゃなサンドイッチだ。
そんなサンドイッチでもドラは不満の顔一つ見せずに、むしろ喜んで食べてくれる。
「はぁ、…仲間になってくれる人なんているのかな。」
ウィチは裕福ではないし、今は店を開けないので節約する暮らしになるだろう。
お金がなくても誰かを仲間にできるのだろうか?
…利害の一致などがしない限り誰もこんな少女に手は貸してくれないだろう。
「ごちそうさまでした。」
早速人が集まる所に向かった方がいいだろう。
ウィチの店の近くには幸いにも小さな村がある。人は少ないが見てみるに越した事はない。
「あのっ、一緒に冒険、して下さる方を探しているんですが。」
ここは広場。人が多く、誰かに手を貸そうとしている暇人が多く集まる場所だ。
「えぇ?なんであんたみたいな魔道具屋がこんなとこに来るの?」
まぁ、疑問に思うのも不思議ではないだろう。
今のウィチは動くには適していないフリフリの服を着ているからだ。
武器は大きな杖を持っているが、大きすぎて時々バランスを崩しかけている。
しかもウィチからは魔力を全く感じられないだろう。
「お、お願いします。『ニック』って人を倒したくて、」
すると受付の女性は少しピクリと反応したかと思うと、急に笑顔になった。
「あぁ、そいつかい。ちょうど今希望者が出てたんだよね…。ちょっと待ってて。」
女性は受付の奥に入り、数十秒が経つと紙のようなものを持って出てきた。
「あったよ。こいつ。
ジャック・オ・ランタン、とも呼ばれる。
「パ、
?状態のウィチを見て、説明がめんどくさくなったのか、女性は受付から出て広場の真ん中へ無理やりウィチの背中を押して向かわせた。
「はいはい、会ったらわかるから。とりあえず会ってみな。」
広場の真ん中には、武器を持った人々が数人椅子に座り楽しそうに話している。
みんな重そうな武器を持っている。ウィチの杖よりもとても重そうだ。
「お、あんたが『ウィチ』?」
少し低めの中性的な声がウィチを呼んだ。
声のした方向を見てみると、2メートルはあるとても大柄な
「こ、この人が
頭には大きなカボチャの被り物を被って、足は地面に付いていない、要は浮いている。
「ねぇ。返事してくんない?聞いてる?」
少し呆れたように声を掛ける
「ご、ご、ごめんなさい…! そ、そうです、合ってます!」
すると
「ふうん。可愛い顔だね。 俺は午後ちゃん。 よろしくね。ウィチちゃん♪」
一人称は『俺』、愛称は『午後ちゃん』、声は低めの中性的…。
正体不明の
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