第6章:リープの限界と葛藤

夕暮れの自室、紗也は机の上に置かれた時計を握りしめていた。針の微かな振動が、まるで心臓の鼓動のように手のひらに伝わる。体は重く、肩は凝り、頭はぼんやりとしている。何度も繰り返したリープの疲労が全身にまとわりつく。


「まだ…できるはず…でも…もう限界かもしれない…」


小さく呟き、紗也は目を閉じた。昨日も、今日も、数えきれないほどリープを繰り返してきた。成功した回数もあれば、わずかな判断ミスで陽翔を危険にさらす失敗もあった。胸の奥で焦燥感がうねり、精神が重く締め付けられる。呼吸は浅く、鼓動は高鳴る。


机の上の時計が微かに光を反射する。紗也は手首を握りしめ、深く息を吸った。目を閉じ、意識を集中させる。体が浮くような感覚、耳に響く鼓動、景色の微妙な揺れ――リープは、肉体的疲労と精神的負荷を同時に押し付ける試練だった。


「陽翔…絶対に守る…!」


声に出すことで、紗也は自分を奮い立たせる。何度も繰り返したリープの中で、守りたい想いはさらに深まり、揺るぎない決意となった。胸の奥で希望と恐怖が交錯し、涙が自然に頬を伝う。


時計の針に意識を集中させると、体が浮くような感覚に包まれる。景色が揺れ、音が遅れて聞こえる。時間が巻き戻る瞬間、全身に電流のような緊張が走る。目を開けると、事故直前の通学路が目の前に広がる。


風の匂い、落ち葉の擦れる音、車のエンジン音、遠くで鳥の声――すべてが鮮明に伝わる。陽翔が道路の中央で立ちすくむ。目が合う瞬間、胸の奥が熱く締め付けられ、恐怖が走る。


「やめて…今度こそ!」


紗也は全力で手を伸ばす。車のヘッドライトが目の端に飛び込み、轟音が耳を打つ。衝撃の予感が全身を貫く。手が滑り、腕を伸ばすタイミングがわずかにずれる。焦燥が胸の奥をえぐり、心臓が張り裂けそうになる。


しかし、紗也は瞬時に修正し、陽翔を安全な場所へ引き寄せる。安堵と恐怖が同時に押し寄せ、胸の奥が張り裂けそうになる。陽翔の目には驚きと困惑が混ざり、微かに眉を寄せる。紗也はその表情を見て、胸が締め付けられる思いを抱く。


「陽翔…絶対に守る…諦めない…」


紗也は短く息を吐き、再び時計を握る。リープの連鎖は続く。成功の安堵は短く、失敗の恐怖は長く残る。肩の重さ、頭のぼんやり、疲労の感覚が全身を包み込む。しかし、胸の奥に残る火は消えない。


数度目のリープで、微細な判断ミスが再び起こる。腕を伸ばすタイミングがわずかに遅れ、風が頬に当たる感覚、車の排気ガスの匂い、タイヤのきしむ音が極限まで緊張を引き上げる。紗也の胸の奥で恐怖が爆発し、心臓が張り裂けそうになる。しかし、その瞬間、決意が勝り、腕を伸ばして陽翔を引き寄せる。


「やっと…」


紗也は声にならない声で呟き、机に倒れ込む。安堵と疲労、恐怖、焦燥――感情が渦巻き、胸が締め付けられる。陽翔は無事で、微かに安堵の表情を見せる。胸の奥で紗也の想いは、決定的に深まった。


紗也は深く息を吸い、手の中の時計を見つめる。疲労と恐怖が胸の奥に残る一方で、希望と決意もまた確かにある。リープの限界は近い。精神的負荷は確実に体を蝕む。しかし、陽翔を守るためには、挑戦を止めるわけにはいかない。


「これが…最後の一歩になるかもしれない…でも…絶対に守る…!」


胸の奥で炎のように燃える決意。光が揺れ、針が回る。耳に響く鼓動、風の匂い、車の排気音、夕日の光――五感すべてが紗也を次のリープへ導く。


未来を変える戦いは、ついに最終局面を迎えようとしていた――。

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