第5章:リープの連鎖

初めてのリープから数日が過ぎ、紗也は毎日、机に置かれた時計を手に時間を戻す訓練を繰り返していた。手のひらで微かに震える時計の針は、まるで生きているかのように感じられる。


「もう一度…絶対に守るんだ…」


胸の奥で決意を固め、紗也は深く息を吸った。初リープは成功したが、それだけでは安心できない。事故の瞬間は些細な差で変化する。わずかな判断ミスが、陽翔の命を奪うかもしれない。手が冷たくなり、胸の奥が締め付けられる。


紗也は目を閉じ、意識を集中させる。時間が巻き戻る感覚――体が宙に浮くような感覚、耳に響く鼓動、景色の微妙な揺れ。初体験の緊張感に比べれば慣れたとはいえ、胸の奥の緊張は消えない。


「陽翔…今度こそ…!」


声を出して自分を奮い立たせ、紗也は目を開ける。事故が起こる直前の瞬間に戻るたび、景色がわずかに揺れ、音が遅れて届く。机の上の時計の針が、まるで紗也の心臓の鼓動と同期しているかのようだ。


紗也は何度もリープを繰り返した。数回目には、微妙な距離感で陽翔の手を掴むタイミングを間違え、風の匂い、落ち葉の擦れる音、車の排気音に背筋が凍る。次の瞬間、車のヘッドライトが目に飛び込み、轟音が耳を打つ。衝撃が全身を貫く直前、紗也は必死に腕を伸ばす。


「やめて…今度こそ!」


陽翔の表情は驚きと困惑が入り混じり、目が大きく見開かれている。心臓が張り裂けそうになり、手に汗が滲む。だが紗也の行動は正確で、陽翔は無事だった。胸の奥で熱い安堵が込み上げ、涙が頬を伝う。


成功の喜びは短い。次のリープでは、微細な判断ミスが命取りになることもある。胸の奥で焦燥感が芽生え、心は疲労で張り詰める。


「もう…限界…かもしれない…」


紗也は息を切らし、机に顔を伏せる。手の中の時計は微かに震え、針がゆっくり回る。何度も挑戦しているうちに、時間操作の感覚は体に染みつく。しかし、心の奥にはまだ恐怖と不安が残っていた。


それでも紗也は立ち上がる。目の前で笑う陽翔の姿を思い浮かべ、胸の奥の火を再び燃やす。


「絶対に守る…諦めない…」


決意を胸に、紗也は時計を握る手に力を込める。光が揺れ、針が回り、時間が再び巻き戻る。事故の瞬間に戻るたび、紗也の胸の奥で緊張と希望が交錯する。


何度目かのリープで、紗也は陽翔の目に映る自分の必死な表情を確認する。恐怖と焦燥、しかし同時に守るという決意が、行動に反映されていることを実感する。成功すれば心の奥に熱い安堵、失敗すれば胸が締め付けられ恐怖が押し寄せる。


「でも…やらなきゃ…」


紗也は自分に言い聞かせ、時計を握る手に力を込める。体は疲労で重く、頭は混乱しそうになるが、胸の奥の火がまだ消えてはいない。光が揺れ、針が回り、時間が再び巻き戻る感覚が全身を包む。


陽翔は何度も目の前に立ち、紗也の心を揺さぶる。目が合うたび胸が痛み、心が熱くなる。しかし、紗也は手を伸ばし、勇気を振り絞り、陽翔を安全な場所へ引っ張る。


何度目かのリープ後、紗也は机に倒れ込み、涙を流す。成功の安堵、失敗の恐怖、疲労、焦燥――感情が混ざり合い、胸が張り裂けそうだ。しかし、陽翔が無事でいること、それだけが紗也の希望だ。


「これ…まだ終わらない…でも…絶対に守る…」


胸の奥で決意が燃え上がる。時計の針が微かに揺れ、光が反射する。紗也の心は希望と不安、決意と恐怖の狭間で揺れる。しかし、その揺れこそが次のリープへの力となる。


紗也は理解した――時間を戻す力は無限ではない。挑戦のたびに疲労と精神的負荷が積み重なる。しかし、陽翔を守るためには、挑戦を続けるしかない。希望と恐怖、安堵と疲労を胸に、紗也は再び時計に手を置いた。


未来を変える戦いは、まだ始まったばかりだ――。

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