第4章:最初のリープ
夜の自室、紗也は机に置いた懐中時計を手に取り、針の微かな振動をじっと見つめていた。心臓が激しく鼓動し、手のひらに伝わる冷たさが、胸の奥の緊張を増幅させる。
「本当に…できるのかな…」
小さく呟き、紗也は深く息を吸う。過去の事故の光景が頭に蘇る――赤い光、轟音、倒れる陽翔。胸が痛く、手が震える。しかし、希望の火も同時に燃え上がる。
手首の上で時計を握り、紗也は目を閉じる。針がゆっくり回る感覚、微かに世界が揺れる感触。初めてのリープ――体が空気に浮くような感覚に包まれ、耳には自分の鼓動だけが響く。
「……わっ」
目を開けると、景色が微かに揺れ、音が遅れて聞こえる。教室の窓から差し込む光も、わずかにぶれている。世界は確かに変わっていた――数時間前の学校の廊下に戻っているのだ。
「本当に…戻った…?」
声にならない声を漏らす。胸の奥で恐怖と興奮が入り混じる。夢のような感覚、しかし手の中の時計が現実の証拠を示している。
紗也は深呼吸し、事故の時刻を頭の中で正確に再生する。廊下の音、友達の笑い声、遠くで微かに響くタイヤのきしむ音――五感をフルに使い、事故が起こる瞬間に備える。
「陽翔…絶対に守る…!」
心の奥で決意を固め、紗也は手を時計に置く。世界が再び揺れ、時間が巻き戻る感覚が全身を包む。耳に響く鼓動、目に映る景色の歪み、胸の締め付け――初めてのリープは、恐怖と期待が混ざり合った不思議な体験だった。
気づくと、事故が起こる直前の瞬間に戻っていた。陽翔が道路の中央で立ちすくむ。心臓が張り裂けそうになり、手に汗を握る。呼吸は浅く、鼓動が耳に響く。
「やめて…今度こそ…!」
叫びながら、紗也は勇気を振り絞る。手を伸ばし、陽翔の腕を引っ張る。車の光が目の端に飛び込み、轟音が耳を打つが、紗也の行動は正確で、衝撃は避けられた。光と音が一瞬の恐怖として残る。
「紗也…?」
陽翔の驚いた声が耳に届く。紗也は涙で頬が濡れるのも気づかず、胸の奥の安堵感に押し潰されそうになる。
「大丈夫…全部、大丈夫だよ…」
震える声で微笑む。陽翔はまだ状況を完全に理解していないが、紗也の決意と行動で命は守られた。
帰宅後、紗也は机の上で時計を見つめる。手の中で微かに振動し、針がゆっくりと回る。心臓の鼓動はまだ速く、胸の奥には疲労と興奮が混ざった感覚が残る。
「これなら…できる」
小さく呟く紗也。しかし、胸の奥にはまだ不安も残っていた。時間を戻す力は手に入れたが、未知の領域であることには変わりない。失敗の可能性、不可解な結果、そして繰り返すことで増す疲労――恐怖は完全には消えない。
紗也は深く息を吸い、次に何をすべきか静かに考えた。事故を完全に回避するには、何度も挑戦する必要がある。希望と決意、そして少しの不安を胸に、紗也は次のリープに向けて心を整えた。
時計の針が微かに揺れ、光が反射する。その瞬間、紗也の胸の奥で、未来への戦いが静かに始まった――。
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