第5話 【メッセージ配信】グループウェアを活用したコミュニケーションについて。

 既読無視。


 どう考えても自分のせいでしかない。律儀にも、『閃光天使ライトニングセインツ』のリアルタイム視聴をした直後に送られてきた「今回も良かったね」という感想に対して、その二十倍のボリュームのコメントを返してしまったのだから、仕方ない。

 こうして、人は何かを失っていくのだな、と思いながら月曜日の朝を迎えた。


 シャワーを浴びながらもやもやしていたら、朝食を口にする時間も無くなっていた。慌ててドライヤーで髪の毛を乾かし、スーツに着替える。ネクタイは今日は会社についてからにすることにした。


 朝の満員電車に揺られながら、後悔が無限にあふれ出してくる。


 ぼーっとした頭で、カードキーでビルのゲートをくぐる。後悔だらけの脳内のまま歩いた結果、エレベーターの前で、立ち止まった人の背中にぶつかってしまった。


「あ、すみません。ちょっと考え事してて……」

「お、おはよう。前田」


 って、織田課長じゃねえかよ! 既読無視した人の顔してないんですが!


「おはよう、ございます」

「勉強になった。ありがとう」

「え?」


 勉強になった? 何に対してのありがとうなのか。考えているうちにエレベーターが開き、ぎゅうぎゅうな中に乗り込む。端と端に追いやられ、会話ができるような位置関係ではなくなってしまった。エレベーターが上階へ上っていく。七階で停まったエレベーターが開いた。


「すみません、降ります」


 織田課長の声がして、一人分のスペースが開いた。朝の管理職ミーティングは七階の会議室でいつもしていたのか。でも、この時間に課長を見るのは、今までなかったかもしれない。エレベーターがまた閉まり、執務室フロアの十階で停止した。


「珍しいよな、織田課長がこの時間に出勤なんて」

「たしかに。いつももっと早いよね」


 同僚たちの声で、やっぱり今日は、いつもとちょっと違う時間に出社していたのだ。


「俺さ、ちょっと織田課長のこと怖いんだよね」

「あ、わかるかも。真面目な人だし、嫌いじゃないんだけど。長い時間を一緒に過ごすのはちょっと遠慮したいな、みたいな。顔も怒ってる感じするよね」


 長身で、精悍な顔つき。優秀で実直。一見、長所のように見えるそれらも、見方を変えると敬遠される要素になるのだ。でも、本当はちょっと口下手なだけで、実は優しいし、特撮仲間だし。誤解されやすいだけだ。自分も、ほんの先週までは誤解していた一人だ。

 今は、違う。自分だけが知っている課長の一面。

 ピロン、と通知音が鳴ってスマホを見ると、新着メッセージのプッシュ通知が出ていた。


『今夜、時間を作ってくれますか』


「課長……?」


 無機質な初期アイコンが、やけにシリアスなメッセージを知らせてくれていた。

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