第3話 【周知】月次ストレスチェックで未然の対策を。
「課長も見たでしょ? あの資料! ソロハラスメント! ソロハラですよ! 家族も親戚も、どいつもこいつもこればっかり! うるせーうるせーうるせーっての」
夕方からの座学研修で疲れ切ったのか、アルコールが身体を巡るのがいつもより格段に早い気がした。でも、不思議と心地良い。
「すぐにそう言って来る人、いるよな。私も営業だったから、取引先とかから懇親会で何回言われたかわからないよ。他の人が嫌がると思うことをしない。前田が、そう気を付けることが大事だと思うけどな」
冷静に考えると、上司の前で饒舌にこんな話をして、やらかしているような気もする。
「にしても、前田がこんなに表情豊かだったとは。正直、びっくりしてしまった」
「俺が仏頂面ってことですか! これでもね、昔は可愛いって言われてたんですからね!」
昔は、だ。成人した童顔低身長男性は、メリットよりデメリットの方が大きいとし
か思えない。侮られるし、軽んじられるし、頼られにくい。
同期の木下のような、一見チャラくて誰とでも寝るような男の方が危険なフェロモンを放っているのか、交際相手を途切れさせたことは無いという噂は、いつもイライラさせられてきた。そう言いながらも家で特撮番組やアニメを見たり、インドアな趣味も手伝って、出逢いがあるわけでもない。
そのくせ、趣味を棄てるつもりも毛頭無いので、理解してもらえない相手と親しくできる自信も無かった。我ながらめんどくさい。
「でも、可愛いって言うのも、セクハラで損害賠償なんですもんね」
そうか。時代のせいで誰も言わなくなったのか。……なんて、馬鹿みたいな屁理屈を並べてみても、結局のところは自分が賞味期限切れだというだけだ。
「それは、まぁ個別具体のケースだけど」
タブレットのタッチパネルで、織田課長がレモンサワーを押した。もしかしたら課長のお気に入りなのか、今日のお酒はレモンサワーしか注文していない。
「言われて嫌だって人がいるからって、言われたい人まで言われなくなるのは酷い……」
「そう、だな」
「課長は、優しいや。何でも肯定してくれるんですね。木下の糞野郎とはえらい違い――」
突っ伏したテーブルが震えた。バイブレーション。スマホだろうか。
「悪い。斎藤マテリアルの社長だ。電話出てくる。水、頼んでおいたから。来たら飲んで」
いそいそと席を立つ、織田課長の鞄の隙間。見覚えのあるピンク色が見えた。
「これ……は……?」
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