第4話:富樫明生の胃痛と磁気ネックレス
富樫警官視点のユーモラスなエピローグを作成します。
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### エピローグ:富樫明生の胃痛と磁気ネックレス
例のコンビに「非公式な捜査協力」を要請してから、数週間が経った。
俺のデスクには、解決済みの書類の山と、空になった胃薬の瓶が並んでいる。成果は上々。だが、精神的な疲労が半端じゃない。
今日も今日とて、山伏君が生活安全課のドアをノックしてきた。
その首には、やけにゴツい黒いネックレスが巻かれている。スポーツ選手が着けているアレだ。
「富樫さん、こんにちは」
「…なんだ山伏君、その首のやつは。ついにオカルトグッズに手を出したか?」
「違いますよ! これは磁気ネックレスです!」
「同じようなもんだろ」
俺が呆れていると、山伏君は真剣な顔でこう続けた。
「最近、安藤の磁場の影響を受けすぎて、肩こりがひどいんです。彼女が隣にいると、右肩だけピリピリして…。だから、これを着けていれば、少しは彼女の磁場をブロックできるんじゃないかと」
俺は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
なんだそりゃ。
パートナーからの悪影響を、物理的な磁力で防ごうとしているのか、こいつは。
発想が斜め上すぎるだろ。
「で、効果のほどは?」
「それが…全然。むしろ、これを着けてからの方が、安藤が面白がって磁場を強くしてくるみたいで…余計に肩が凝るんです」
だろうな。
目に浮かぶようだ。山伏君の必死の抵抗を、安藤ありさが鼻で笑いながら無効化している姿が。
山伏君は、心底困り果てた顔で、俺に一枚のパンフレットを差し出した。
開いてみると、そこには例の磁気ネックレスが、色違い、デザイン違いでずらりと並んでいる。
「…富樫さん、お願いがあるんですけど」
「なんだ」
「安藤にも、これをプレゼントしたいんです。ペアで着ければ、お互いの磁場が中和されるかもしれないじゃないですか!」
……ダメだこいつ。
俺は天を仰いだ。
こいつは本気で言っているのか。
あのひねくれた女が、こんなベタなペアグッズを素直に着けるとでも?
断るに決まってるだろ。むしろ「趣味が悪い」と罵られて、さらに強力な磁場攻撃を食らうのがオチだ。
俺はこめかみを押さえながら、できるだけ穏やかな声で言った。
「山伏君。それは…自分で買いなさい」
「ええーっ!? 経費で落ちませんかね? 捜査協力の一環ですよ、これも!」
「落ちるか! 君たちの痴話喧pre(げんか)の仲裁まで、警察の予算は使えん!」
山伏君は「そんなぁ…」としょげ返って、とぼとぼと帰っていった。
その背中を見送りながら、俺は腹の底から笑いが込み上げてくるのを止められなかった。
「はっはっはっは! 知るかよ、そんなもん!」
笑いすぎて、また胃がキリキリと痛み出す。
俺は新しい胃薬の瓶を開けながら、窓の外に目をやった。
公園のベンチで、山伏君が恐る恐る安藤ありさに小さな箱を渡しているのが見える。
彼女は一瞬きょとんとした後、次の瞬間、腹を抱えて笑い出した。
ああ、今日もこの街は、面倒くさくて、平和だ。
(了)
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