酒
二人で酒を飲んだ帰り道、空は真っ暗だった。
すっかり酔いが回っているのは
「水晶。気付けなくてごめん。僕と同じ位飲ませちゃって」
「いいからぁ……早く帰ろう……」
やっと下宿に辿り着いて、階段を二人三脚のように上がる。
しかし、途中でずるりと力の抜けた水晶は、階段の踊り場で座り込んでしまった。
「水晶! 大丈夫か? とりあえず水を飲むか? 僕が取ってくるから……」
「いらん。行くな。休めば動けるから、ここにいてくれ」
俯いたままの水晶に強い語調で遮られ、菫青も腰を下ろして様子見をすることにした。
橙色の明かりでは、水晶の顔色がはっきりとは分からない。
「菫青。そこにいるなら、話に付き合ってくれねえか?」
「ああ、いいよ」
水晶はぼそぼそと、菫青にしか聞こえないような声で話し始める。
「俺は、ガキの頃から体が弱くて、親に散々面倒をかけたんだ。それでなぁ、アンタは間違いだったって言われた」
静かに聞いている菫青の表情は影が落とされていた。
「あの時は何が間違いか分かんなかったが、今は言われた理由が理解出来る。これって、親とよく似た大人になれたってことだ」
水晶が顔を上げた。ここからが見せ場だと言わんばかりに。
「けどな、親にケチつけられても、ガキの頃から抱えていた思想やら理想やらを守り抜いた人間は、新しい大人になれるんじゃないかとも思うんだ」
ひひひ。水晶の笑い声は微かで、嗚咽と似ていた。
「水晶……やっぱり水を持ってくるよ」
翌朝。菫青が机に向かって課題をしていると、二日酔いの水晶が目覚めた。
「おはよう、水晶。気分はどうだ?」
唸るような声が、気分の優れないことを伝えていた。
「……俺、何かお前に言ったよな?」
「酒屋での話か?」
「違う、ここの階段で」
菫青は覚えていたが、記憶が曖昧かもしれない水晶に、どう言うべきか考えた。
「あー……確か、えっと……新しい大人とか」
「そうだ! 新しい大人って、思い付いたことベラベラ言ってたんだ!」
どうやら記憶が完全に戻った水晶は、頭を抱えてため息をついた。
「おい。俺の言ったことは全部忘れろ。馬鹿な酔っ払いの言うことなんて信用するな」
「僕は楽しかった。水晶は間違いなく頭がいい。僕じゃ考えつかないことを、あんなに淀み無く言えるなんて」
菫青はいつもと変わらず、柔らかく笑っている。
「もう俺は酒を飲まねえ」
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