煙草

 友人たちと会話をしていた菫青きんせいは、タバコを勧められた。

 一本に火を付けたが、吸った途端にむせ返ってしまった。

 昼過ぎに菫青が帰宅すると、開け放たれた部屋の窓のへり水晶すいしょうがもたれていた。

「ただいま……あっ」

 振り向いた水晶の右手に、煙の昇るタバコがあった。

「どうした。豆鉄砲でも食らったか」

「いや……水晶もタバコを吸うのか、って」

「仕事で行った家のジジイの気前がよくてよ、一本貰ったんだ」

 部屋に匂いを残さないために、水晶は再び外を向いて煙を吐いた。

 菫青は窓の近くに腰を降ろして、水晶の横顔を眺める。

「僕、今日初めてタバコを吸ってさ。だけど苦しくて駄目だった」

「良かったじゃねえか。お前は肺も心もまっさらでいられるんだ」

「水晶は慣れているみたいだね。いつから?」

「ちょくちょく貰ったからなあ。金が無いから自分じゃ買ったことねえよ」

「愛煙家か」

「好きじゃない」

 水晶が菫青に視線を向けた。

「火、消すか?」

「いや大丈夫だよ。でも大家さんにバレないようにしよう」

「ずっとこっち見て。面白くねえだろ?」

「ああ、水晶が上手く吸えるのが羨ましくて」

 薄暗い部屋の中に、晴れ渡る空からの陽光が差し込んでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る