第14話 ガソリンスタンドが消える日
康太が『飛行制御アプリ』を無料公開してからわずか数時間。世界中の空には、浮遊する自家用車や、驚きに叫ぶ人々、そして『空を飛ぶゴミ収集車』までが現れ、社会は文字通りの大パニックに陥っていた。
「佐藤君! 経済が……世界の経済が死んでしまうわ!」
放課後の部室に飛び込んできた凛は、髪を振り乱して叫んだ。
「あなたのアプリが原因で、ガソリン車を売っているメーカーの株価が紙屑同然よ! しかも、みんな空を飛び始めたせいで、ガソリンを給油する必要がなくなってるじゃない!」
「え? それはいいことだろ?」
康太は部室の隅で、電気ケトルの配線をいじりながら不思議そうに答える。
「みんなガソリン代が高いって文句言ってたし。僕のアプリ、車体の振動からエネルギーを錬成して電力に変える『自律型魔導発電』も組み込んであるから。燃料代、もう一生かからないよ」
「……一生? 燃料代が?」
凛は膝から崩れ落ちた。それは、人類が数千年にわたって積み上げてきた「エネルギー資源を奪い合う歴史」の終焉を意味していた。
その頃、中東の石油王たちや巨大なエネルギー企業のCEOたちは、緊急会議を開いていた。
「あの少年一人に、我々の富が奪われてたまるか! 直ちに佐藤康太を『全人類の敵』として指定しろ!」
彼らは強大な資金力を使い、各国の政府に圧力をかけ、康太の自宅周辺に『経済制裁』の名目で私設軍隊を派遣した。
一方、佐藤家のガレージ。
康太は、凛の心配をよそに、親友の健と一緒に新しいガジェットを試作していた。
「なあ康太、この『全自動・出前錬成機』、マジで3秒でピザが出てくるのか?」
「うん。空気中の窒素と炭素を組み替えて、最高の焼き加減で出力する。これなら配達員が空を飛ばなくても、家で食べたいと思った瞬間にピザが食えるだろ?」
二人がそんな会話をしていると、家の外から拡声器の声が響いた。
「佐藤康太! 貴様を国際経済秩序混乱の罪で拘束する! 抵抗すれば容赦はしない!」
窓の外を見ると、最新鋭の装甲車や攻撃ヘリが家を包囲している。しかし、それらの兵器もすべて康太のアプリによって『浮遊』させられ、すでに攻撃手段としての地面との摩擦力を失っていた。
「……神代さん、外の人たち、燃料が切れるのを心配してるみたいだけど、あのアパッチ(ヘリ)も勝手に永久機関に書き換えといたから。一生、空で警備できるよ」
「嫌がらせのレベルが神の域に達してるわよ、あなた……」
結局、包囲していた軍隊は、攻撃しようにも「弾丸が勝手に花吹雪に変わる」術式や、「引き金を引くとハッピーバースデーが流れる」呪文回路を仕込まれ、戦意を完全に喪失して帰還していった。
そしてその夜。康太は、ガソリンスタンドが経営破綻することを防ぐために、ある「提案」をSNSにアップした。
『全国のガソリンスタンドの皆さんへ。これからはガソリンを売る代わりに、この粉(錬成触媒)を撒いてください。そうすれば、そこが『瞬間移動のステーション』になります。どこへでも一瞬で行けるようになるから、もっと繁盛すると思います』
翌日、倒産しかけていたガソリンスタンドは、世界中を繋ぐ『どこでもドア』のターミナルへと変貌した。
康太のやりたい放題は、ついに『距離』という概念さえも、過去の遺物へと変えようとしていた。
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