第12話 火星の片付けと地球への凱旋


「……あー、やっぱり自分の部屋が一番落ち着くかも」

火星でのバーベキューを終えた翌朝。康太は、自宅(兼宇宙船)のリビングで伸びをした。

窓の外には、見慣れた千葉県の山林が広がっている。昨夜、首脳陣を火星に置き去りにするわけにもいかず、康太は一瞬で地球と火星を繋ぐ『量子ゲート』を設置し、自分はサクッと自宅ごと元の場所に戻ってきたのだ。

「佐藤君、戻ってきたのはいいけど……。見て、窓の外」

凛が指差す先には、数日前まではなかった光景があった。

神代財閥が慌てて用意した「仮設」とは呼べないレベルの巨大な防衛基地。そして、康太の自宅を取り囲むように、世界中のメディアのヘリが数十機、空を埋め尽くしている。

「あちゃー、やっぱりバレてるよね」

「当たり前でしょ! 月に街を作って火星を緑にした男が、近所のガレージに戻ってきたのよ!? 世界中があなたの一挙手一投足を注視してるわ」

その時、玄関のチャイムが鳴った。

「康太ー! 宅急便ー! ……って、外の人だかりは何!? 怖いんだけど!」

母・玲那の悲鳴に近い声。康太が玄関を開けると、そこには困惑した顔の配達員と、その後ろで隙あらば家の中にマイクを向けようとする記者たちの群れがあった。

「あ、ごめん。今、バリア張る」

康太が指を鳴らすと、佐藤家の敷地境界線に沿って、透明な『認識阻害・物理反射シールド』が展開された。

一瞬にして、外の喧騒が消える。記者たちからは家そのものが見えなくなり、ただの「空き地」に見えるようになった。

「よし、これで静かになった。……さて、神代さん。宇宙もいいけど、やっぱりやりたいのはこっちなんだよね」

康太はガレージに移動すると、使い古された工具箱を開いた。

「月とか火星とか、大きすぎて実感が湧かないだろ? 僕がやりたいのは、もっと身近な不便を無くすことなんだ。例えば……これ」

康太が手に取ったのは、一台の古びた軽自動車だった。父・俊が通勤に使っている、あちこちガタが来ている車だ。

「これに、火星で拾った『高密度重力石』の端材を組み込んでみる。タイヤがなくても走れて、渋滞を飛び越せて、交通事故が物理的に起きない車。……これなら、父さんも楽になるはずだろ?」

「……。あなたは本当に、神様みたいな技術を、日曜大工みたいに使うのね」

凛は呆れつつも、どこか安心したように微笑んだ。

康太の「現代やりたい放題」は、ここからが本番だった。まずは日本の、そして世界の「交通」と「物流」を根底から作り変える、身近な超技術革命が始まる。

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