第9話 月面都市の「お掃除時間」
「……警告はしたんだけどな」
康太はスマホの画面をタップし、都市の防衛モードを『自動排除』に設定した。
侵入してきたのは、世界最大級の軍事産業複合体『オムニ・ダイナミクス』が放った、最新鋭のサイボーグ兵士たち。彼らの目的は、都市のメインサーバーを物理的に掌握し、康太の技術データを奪取することだった。
「ターゲット確認。生体反応、一名。武装なし。……速やかに無力化し、サンプルとして回収する」
ステルス迷彩を解いたリーダー格の男が、高周波ブレードを抜き放つ。しかし、彼らが康太に一歩近づこうとした瞬間、街角の『ゴミ箱』がガシャリと音を立てて変形した。
「……? 何だ、この不細工な機械は」
それは、康太が自宅で使っていたルンバのアルゴリズムを転用し、月面の重機パーツで急造した『都市管理用清掃ロボット・零号機』だった。
「あ、それね。街を汚す『異物』を自動で見つけて、適切な場所に捨てるように設定してあるんだ」
康太がそう呟いた直後、清掃ロボットの底部から青白い重力波が放射された。
「なっ、体が……浮く!? 出力全開、姿勢制御――ぐわあああッ!?」
最新鋭のサイボーグ兵士たちが、まるで紙屑のように空中に吸い上げられていく。彼らが放つ弾丸も、レーザーも、ロボットの周囲に展開された『次元断層シールド』によって、どこか遠い宇宙空間へと転送され、全く届かない。
「おい、離せ! 貴様、自分が誰を相手にしているか分かっているのか!」
「分かってるよ。『燃えないゴミ』でしょ?」
康太が淡々と指を動かすと、ロボットのハッチが開き、侵入者たちは一人残らずその暗黒の内部へと吸い込まれていった。
「……佐藤君、彼らをどこへやったの?」
凛が恐る恐る尋ねる。
「ああ、大丈夫だよ。都市の地下にある『自動リサイクル施設』。そこで装備を全部剥ぎ取って、裸にしてから地球の国連本部広場に転送(ポイ捨て)しといた。マナー違反のポイ捨てには、ポイ捨てで返すのが一番だろ?」
「……。ある意味、殺されるより惨めね」
事件はそれだけで終わらなかった。
侵入者が排除された直後、都市の中央広場の地面が、これまでとは違う『重い振動』と共に割れたのだ。
「え、今のは僕のプログラムじゃないよ?」
康太が目を見開く。
割れた地面の下から現れたのは、白銀に輝く巨大なピラミッド状の構造物。それは康太が都市を建設した際の衝撃とエネルギーに反応し、月の地底深くから浮上してきたものだった。
「康太! 見ろ、あれ!」
健が叫び、カメラを向ける。
ピラミッドの表面には、康太がいつも使っている『異世界の文字』と酷似した、しかしより古く、重厚な幾何学模様が刻まれていた。
『――適合者ノ検知を確認。……待機時間、一億二千万年。……文明再起動プログラム、スタンバイ』
無機質な音声が、空気のないはずの月面に直接響き渡る。
「……佐藤君。これ、ひょっとして……」
「うん。僕の頭にある知識の『元ネタ』かもしれない」
康太は、恐怖よりも好奇心に目を輝かせた。
どうやら、この月には康太の知識である『異世界技術』の先駆者が、はるか昔に訪れていたらしい。
「面白くなってきた。これを開ければ、もっとやりたい放題できるかもしれない」
「これ以上やるつもりなの!? 地球がひっくり返るわよ!」
凛の制止も虚しく、康太はピラミッドの扉に手を触れた。
現代文明の数手先どころか、宇宙の理(ことわり)そのものを書き換えるような「真のオーバーテクノロジー」が、今、高校生の手によって解禁されようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます