第六話:『電脳巫女 vs 時空の刺客(システム・ハック・バトル)』

「ハッキング……! でも、どうやって!?」 葵のスマホは、今川の浮遊要塞を墜とした時のような「脆弱性発見」の表示を出してはいない。カスミの放つ紫色の干渉波は、清州城のすべての機巧を沈黙させ、信長さえも身動きが取れない。


「巫女殿! その板の『アプリ』を使え! 貴様が普段使っている『遊びの道具』が、この世界の常識を破壊する鍵となる!」 果心居士が叫ぶ。葵はスマホの画面に目を落とした。そこに表示されているのは、彼女がいつも使っていた、ごく普通のアプリのアイコンだ。


「遊びの道具……?」 カスミが冷たい眼差しで葵に迫る。彼女のプラズマ苦無が唸りを上げ、高圧電流が床を走った。


「システム干渉、レベル2。AMATERASU終端、強制停止プロセスへ移行」


「止まって! 私、これを使う!」 葵は震える指で、とあるアイコンをタップした。


バトル開始:葵の「アプリ」スキル

【スキル発動:『カメラ(心眼モード)』】


アイコン: カメラアプリ


効果: 葵のスマホが「AMATERASU」システムによって強化され、カスミの纏う強化外骨格の**「霊力回路(時空管理局の技術を応用したエネルギー経路)」**を透視する。


描写: 葵の目には、カスミの全身を走る複雑な青い光の筋が見えた。


「見えた! あなたのエネルギーラインが、右足のブースターから……!」


【スキル発動:『ミュージックプレイヤー(音波攻撃モード)』】


アイコン: 音符アイコン


効果: スマホから、カスミの強化外骨格の共振周波数に合わせた高周波音波を放つ。内部のシステムに過負荷をかけ、一時的に動作を麻痺させる。


描写: キィィィン!という耳障りな甲高い音と共に、カスミの身体がわずかにブレた。


「くっ……! この周波数……!?」


【スキル発動:『マップ(時空間同期妨害)』】


アイコン: 地図アプリ


効果: カスミが展開している「時空干渉フィールド」を、スマホの持つ「AMATERASU」システムが持つ空間認識能力で逆利用し、彼女自身の座標軸をわずかにずらす。


描写: カスミが葵を斬りつけようと突進した際、なぜか葵の背後の柱を斬りつけ、バランスを崩す。


「馬鹿な……空間座標が乱された!? この端末、そこまで……!?」


信長は葵の戦い方を、興味津々に見ていた。ただの「光る板」が、自分の知るどんな武器よりも強力な「術」を繰り出している。


「ほう……なるほど。これが『未来の巫女』の戦い方か」


しかし、カスミも時空管理局の特工。只者ではなかった。 「小賢しい! だが、端末のバッテリーが持つかな?」 カスミの右腕から、光るワイヤーが射出される。それは葵のスマホを奪うための**「電子捕縛器」**だった。


「しまった!」 葵が身をかわそうとするが、ワイヤーはスマホの充電ポートを正確に捉えた。 瞬間、カスミの右目の電子モノクルが、葵のスマホの画面にリンクする。


[EXTERNAL HACKING ATTEMPT... DATA INTEGRITY THREATENED!] [BATTERY: 5%]


「データを、読み取られてる!?」


カスミの顔に、冷たい笑みが浮かぶ。 「貴方の端末から、時空管理局の機密情報が流出している。この端末は、本来は廃棄されるべき『禁忌の遺物』なの。私が回収する!」


その時、沈黙していた信長が動いた。 紫色の干渉波はまだ清州城を覆っているが、信長の魔導長銃が放つのは純粋な「霊力」で作られた弾。それはテクノロジーの干渉を受けにくい。


「つまらぬ小競り合いは終わりだ。未来の小娘、貴様の命運もここまで!」 信長の放った霊力弾が、カスミの足元を狙う。 「ちっ! 予想外の干渉! 撤退!」


カスミはワイヤーを引っ張り、葵の手からスマホを奪い取ろうとする。葵は必死にスマホを掴んで離さない。 「離して! これは私の!」


しかし、カスミは一瞬の迷いもなくワイヤーを切断し、天守閣の窓から撤退した。 「……また会うわ、神凪葵。次こそ、確実に回収する」


カスミの姿が完全に消えた瞬間、清州城を覆っていた紫色の干渉波が霧散し、藤吉郎の義手がガシャンと音を立てて再び動き始めた。


「ったく、ヒヤヒヤさせやがって! お嬢さん、大丈夫かい!?」 「バッテリー……1%……」 葵は、ほぼ完全に沈黙したスマホを握りしめていた。


信長はゆっくりと葵に近づき、その頭を撫でた。 「よくやった。貴様の『遊びの道具』は、俺の天下には必要不可欠だ」


葵は複雑な表情で信長を見上げた。現代に帰れるかもしれない希望と、信長の強烈な支配欲。 彼女の未来は、もはや「テスト勉強」だけでは決められそうになかった。

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