第四話:『清州城の雷鳴(チャージ・大作戦)』

桶狭間の戦いから数日。織田軍の拠点である清州城は、勝利の熱狂に沸いていた。 しかし、その一角にある離れの一室では、葵が絶望の淵に立たされていた。


「だめ……やっぱり、つかない……」 何度もスマホの電源ボタンを押すが、画面は漆黒のままだ。現代社会では当たり前の「充電」という行為が、この戦国時代では天に祈るよりも困難な儀式となっていた。


そこへ、騒々しい音と共に藤吉郎が飛び込んできた。 「お嬢さん、朗報だ! 信長様が、日の本一の『変態』……いや、天才機巧学者を連れてきたぜ!」


藤吉郎に連れられて現れたのは、ボサボサの髪に、油の染みた白衣のような羽織を着た老人だった。 「ほう、これが異界の神器か。……ふむ、外装にはネジ一つない。なんと美しい組み上げだ」 老人は竹中半兵衛の師とも噂される機巧師、果心居士(かしんこじ)。彼は葵のスマホを手に取ると、目を輝かせてルーペで観察し始めた。


「これね、雷の力がないと動かないの。霊力じゃなくて、『電気』が必要なんです」 葵の説明に、信長が部屋の奥から姿を現す。 「雷だと? ならば、空から降ってくるのを待つか?」


「いえ、そんなの死んじゃいます! ……でも、磁石と銅線があれば、たぶん作れるはず。学校の理科で習った『発電機』の原理なら……」


信長の号令により、清州城内に突如「電力開発局」が設置された。 葵のうろ覚えな知識を頼りに、果心居士と藤吉郎、そして城下の職人たちが総出で作業を開始する。


「銅線を巻き付けるんだ! もっと細く、均一に!」 「磁石はこの『魔導石』を加工すれば代用できる。回転させる力はどうする?」 「水車の力を使って! 近くの川の流れを利用するの!」


葵の指示により、城の堀に巨大な水車が設置され、そこから太い銅のケーブルが葵の部屋まで引き込まれた。戦国時代の技術と現代の科学知識が、奇妙な形で融合していく。


しかし、問題は「端子」だった。 「スマホの充電ポートに合うプラグなんて、この世界にはない……」 葵は泣きそうになりながら、自分の持っていた充電ケーブルの断片を見つめる。


その時、果心居士がニヤリと笑った。 「お嬢さん、機巧の真髄を見せてやろう。霊力を電気に変換する『触媒』だ」 彼は葵のケーブルに、不思議な術式が刻まれた小さな石を埋め込んだ。それは、微弱な霊力を正確な電圧の電気へと変える、この世界独自の「魔導変圧器」だった。


「繋ぐぞ……。皆、離れておれ!」


激しい水車の回転と共に、銅線が青く光り始める。 「いっけぇぇぇ!」 葵が祈るようにケーブルをスマホに差し込む。


一瞬、バチバチと火花が散り、部屋全体が眩い光に包まれた。 「あ……」 沈黙の後、スマホの画面に小さな**「リンゴのマーク(またはOSロゴ)」**が浮かび上がる。


[BATTERY: 1%]


「つ、ついたぁぁぁーーー!!!」 葵は飛び上がって喜んだ。藤吉郎も義手をガシャガシャと鳴らして踊り、信長は満足げに頷いた。


しかし、喜びも束の間。 再起動したスマホの通知画面には、信じられないメッセージが表示されていた。


[SYSTEM ALERT: MULTIPLE TIME-DISTORTION DETECTED] [NEARBY PLAYER FOUND: 2KM]


「……え? プレイヤー……? 私以外にも、誰か来てるの?」


葵がスマホの地図を開くと、清州城のすぐ近くに、自分と同じ「現代の信号」を発する赤い点が点滅していた。


「信長さん、大変! この近くに……私と同じ『未来の力』を持った奴が隠れてる!」


信長の目が鋭く細まる。 「ふん、獲物は俺たちだけではないということか。面白い……。藤吉郎、出陣だ。その『未来の侵入者』を、生け捕りにしろ!」

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